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月恋 第228話 「聴覚まで張り巡らせる」 ページ38

隼兄と涙兄と何とか陸上競技場へ着いた時には、もう既に郁兄が出場する個人種目である400m走は始まっていて。

応援席から見えたのは、スターティングブロックへと足を掛け、真剣な表情で前を見据える郁兄の姿であった。

黒いユニフォームからすらりと伸びる細長い手足に綺麗についた筋肉が、普段、郁兄がどれ程一生懸命陸上に取り組んでいるのかを私に教えてくれた。

彼とは3つくらい歳が離れているけれど、何時も私と一緒になってはしゃぎ、遊んでくれるものだから、年上のお兄さん、と言う感覚があまり無かった。

テレビの画面越しの彼もそうだ。

アイドル衣装を着る、と言うよりは衣装に着られている感じがちょっぴり否めないのと同時に、ステージの上で爽やか且つ、まだまだ大人とは程遠いあどけない少年の笑顔を浮かべて歌い、軽快なステップでダンスを踊る郁兄。

私が何時も見ている彼は言動は男前だけれど、まだ少しだけ幼さの残る男の子。だが、今の彼は自分がやり遂げたいと思った目標を前にし、一点の曇りも無い大きく丸い瞳に強い光を宿した格好いい一人の選手であった。

そして、瞳の中にあったその強い光が、照り付ける太陽の光を反射させ、弧を描くように、キラリと輝いた瞬間。

バァンッ、と一瞬、心臓と鼓膜を縮まらせる様なスターターピストルが辺りに響いた。

レーンに沿って並び、何時でも走り出せるよう構えていた選手達の空気がガラリと変わり、皆、地面を勢いよく蹴って走り出す。

スタートの合図との間を空けることなく、ほぼ、号砲が鳴ったと同時に駆け出した郁兄。

私だったらきっと、ピストルの音に驚いてスタートが遅れてしまうと思った。けれど、選手の人達は只、走るための足だけじゃなく、聴覚にまで神経を張り巡らせて集中しているのだと気付かされた瞬間だった。

月恋 第229話 「誰よりも明るくて眩しい」→←月恋 第227話 「魔王様コンビ」



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snow(プロフ) - 櫻餅さん» すごくキャラの性格が出ていると思います。皆の良いところが出ているなと思います。忙しいと思いますが無理せずに頑張って下さい! (2019年5月17日 17時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - snowさん» コメント有難う御座います!夢主人公だけでなく、書かせて頂いているツキウタ。キャラも好きだと言って頂けてとても嬉しいです! (2019年5月17日 5時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - こんばんわ♪更新、ありがとうございます。やっぱり好きです。ヒロインの真っ直ぐな所も可愛いけど、他のキャラも好き。今回の話は新君らしいなって気がしました。是非、志望校に受かって欲しいなと思いました。 (2019年5月16日 21時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - といろさん» コメント有難う御座います!また不定期ではありますが、更新頑張っていきたいと思っておりますので宜しくお願い致しますm(__)m (2019年5月15日 2時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
といろ - 再開待ってました!ありがとうございます…!これからもずっと応援しています。無理なさらぬよう、お願いします…!! (2019年5月14日 13時) (レス) id: 8af1b1e6db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:櫻餅 | 作成日時:2018年11月5日 18時

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