月に恋せよ暦ガール 【5】

月恋 第226話 「プロセラのスポーツ少年」 ページ36

「え、郁兄、明日大会なんですか?」

最近一気に個人での仕事量が増え、ツキノ寮の人達とすれ違いの生活が2週間くらい続いたとある金曜日のことである。

仕事から帰った午後7時。涙兄と郁兄とプロセラの共有ルームでばったり出会い、暫く3人で雑談をしていたとき。

郁兄が明日陸上の大会に参加すると言うことを、涙兄がぽろりと口にしたのである。

「そっか。Aちゃんには、最近ゆっくり話す機会が無かったから言ってなかったね。涙の言った通り、明日は陸上の大会なんだ!」

流石は大阪府にある学校と東京都を行ったり来たりしながら、部活動とアイドル業をどちらも大好きだからと両立してしまう程のスポーツ少年。大会だからと緊張した素振りを見せず、眩しいほどの爽やかな笑顔を浮かべる。

「明日、僕と隼で応援に行くんだけど、Aも一緒に行く?」

涙兄が私に向かって小首を傾げた。

どうやら、涙兄と隼兄以外のプロセラ面子は残念なことに、明日丁度個人での仕事が入ってしまっているらしい。

私は幸い、明日は完全なるオフ。土曜日だから部活もなければ学校も仕事の予定もない。

「私も御一緒して良いんですか?」

「勿論!Aちゃんも応援に来てくれたら嬉しいな!」

「僕と隼だけじゃ、電車の乗り降りが心配だから来てくれると助かる」

「あはは、確かに……」

陸上の大会。私がやっている弓道とはまた違ったものがあるのだろう。是非この目で見てみたいと思い、同行しても良いのか尋ねてみれば涙兄からは何とも切実な返答が返ってきた。それに対して思わず郁兄の乾いた笑いが溢れ、私もつられて苦笑い。

機械との相性が何故か絶望的に悪い隼兄と、ちょっと浮世離れした涙兄の二人では確かに心配でしかない。それこそ、見送る側であろう海さんや葉月さんなんかのツッコミ担当組は気が気でない筈だ。

此処は私が頑張って二人を郁兄の参加する陸上の大会まで引っ張っていかねばと、思わず意気込んだ。

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