月に恋せよ暦ガール 【5】

月恋 第195話 「戸惑い」 ページ4

「え、Aのお父さん?!」

駆兄が私の言葉を耳にし動揺する。

「かもしれないと言うだけで、実際見て確かめてみないことには何とも」

私は顎に手を当て少しの間考え、矢張り実際この目で確めて来ようと言う結論を出した。

「ちょっと確認して来ます」

此処はグラビやプロセラだけでなく、他の人気アイドルや役者さん達も多く住まう寮である。

もしその人が父ではなく、他の人の関係者か、ストーカーと言う可能性も大いにありうるが、その分セキュリティもしっかりしている。

エントランスの扉からちょこっと覗くだけなら大丈夫だろう。そう思い、プロセラの共有ルームから一階へと降りようとすれば―――

「ちょっと待った」

春さんにガシリ、背後から肩を掴まれ足を止められた。

「ただの他人の空似って言う場合もあるから、一人で行くのは流石に反対かな。俺も一緒に行くよ」
「は、はい、えっと、お願いします?」
「うん、お願いされました」

春さんの言うとおり、もしかしたら父ではなく、父によく似た変質者と言うことも有り得るわけで。

春さんのお手を煩わせるのは大変申し訳無いが、正直私一人では若干の不安が残っていたため、困惑気味にではあるが、素直に頷けば春さんはそれに満足したのか、にっこり、優しい笑みを浮かべた。

それから、春さんだけでは不安だと言うことで、護身の出来る始さんにもついてきてもらいながら、階段から寮のエントランスまで降り、入り口の方からこっそり、その男性の姿を確認する。そして確信した。

紺色のスーツと灰色のネクタイをきっちり着こなした若干つり目気味の童顔、長身で細身の男性は間違いなく喧嘩をしたばかりで顔も見たくないと思っていた私の父親である。

「何で、父さんが此処に」

私は突然の父の来訪に戸惑うしかなかった。

月恋 第196話 「過保護で、世話焼きで、強引なお兄さん」→←月恋 第194話 「紺色のスーツと灰色のネクタイ」

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