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月恋 第170話 「喧騒から遠のく」 ページ28

懐かしむ様に、けれど何処か寂しそうに目を細める海さん。

普段、バイタリティ溢れて溌剌とした笑顔を見せてくれる海さんにしてはとても珍しい表情だ。幾らどうかしたのか気になったとしても、今声を掛けるのは野暮と言うもの。

誰だって想い出に浸り、感傷的になることくらいある。そう思い、喉元まで出掛かった言葉の数々をぐっと堪えて飲み込んだ。

「さて、そろそろ行くか!」

射的で遊んだ後、海さんはまた何時も通り、ニカッと明るい笑顔に戻っていた。それに一安心した私は再び、駆兄と共に海さんの後ろを付いて歩く。

先程よりも人が多くなり、身長140後半のチビである私は人波に揉まれて歩くのが精一杯。

人混みの中、押しつ押されつを繰り返しているうちにいつの間にか海さんと駆兄を見失ってしまった様で。これはマズイことになったと焦るも、二人が何処に居るのか分からず、がくりと肩を落とす。

兎も角、この人混みを抜けようと脇道に逸れたとき―――――チリンッ

何処からともなく、小さな鈴の音が聞こえてきたかと思うと一瞬にして目の前の光景が変わったのである。

客を呼び、生き生きとした表情で商売をする露店の店主も、はぐれないようにと手を繋いで祭りを回る親子も恋人も、先程まで居た筈の人々が私の目の前から消えたのだ。

残ったのは店主が居なくなり、もぬけの殻となった露店の数々に参道をぼんやりと照らす赤い提灯。そして聞こえるのは楽しそうな人々の声やカランカランと石畳の上を鳴る下駄の音ではなく、誰が弾いているのかも分からない祭囃子の太鼓と笛の音だけ。

喧騒から遠退き、少し参道の脇道に逸れただけだというのに一体何が起こったのか。訳が分からず、胸の前で両手を組み、ギュウッと混乱している自分を落ち着かせるために握り締める。

そして私以外、他に誰か居ないのか。キョロキョロと辺りを見渡す。

誰か、誰か居ないのか。

焦り、背中にひやりとした嫌な汗が滲み出したときである。クイックイッ、遠慮がちに浴衣の袖を引っ張られた。

袖を引っ張られた方へ、少し視線を下げる。するとそこにはくりくりとした甘栗色の瞳を揺らし、不安げに私の姿をその瞳に映す小さな少女の姿があった。

月恋 第171話 「赤い髪飾り」→←月恋 第169話 「的屋の髪飾り」



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櫻餅(プロフ) - ♯鈴音色♭さん» コメント有難う御座います!お話だけでなく夢主までも好きだと言って頂けて嬉しい限りです。また少しずつですが更新していきたいと思っておりますので、続編も宜しくお願い致します! (2018年11月5日 18時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
♯鈴音色♭(プロフ) - 桜餅さんおかえりなさいです! このお話も主人公ちゃんも大好きなので、続編お待ちしています!! (2018年11月5日 17時) (レス) id: b160fc2e68 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - 深海さん» 返信が遅くなってしまい申し訳無いです。朏さんとのお話は自分も楽しく書いていたので、そう言って頂けて大変嬉しい限りです。中々更新が最近出来ていませんが頑張って行きたいと思います。コメント有難う御座いましたm(__)m (2018年8月27日 20時) (レス) id: fb6a326e77 (このIDを非表示/違反報告)
深海(プロフ) - 読んでいてとても楽しくなりました。特に朏さんの辺りの話が好きです。これからも楽しみにしています、更新頑張ってください。 (2018年8月25日 0時) (レス) id: 5947186a26 (このIDを非表示/違反報告)
ピヨコ - 丁寧に教えてくださって有難うございます。成程、私も試してみます。これからも頑張って下さい。応援しています。 (2018年8月4日 9時) (レス) id: 0464d791fc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:櫻餅 | 作成日時:2018年4月15日 23時

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