月に恋せよ暦ガール 【4】

月恋 第158話 「実に薄情である」 ページ16

朝、夜さんが私に対して見せた何処か寂しそうな笑顔。それが頭から離れないまま今日と言う1日を過ごした。

幾ら気になると言えど、学校の生活もアイドルとしての仕事も適当に流して良いものではない。

気になって気になって仕方がなくて、どうして悲しそうな、寂しそうな笑顔を浮かべたのか。その理由を深く追求しようとする頭を、授業と仕事方面へと必死になって引っ張り戻しながら1日を終えたのである。

そして放課後、バラエティー番組の収録を終えて帰ろうとしたときだ。

携帯のバイブが振動し、私にメールが来たことをお知らせしてきた。

誰からだろうと鞄の中から携帯を取り出し、送り主を確認する。

「げぇっ!」

確認したと同時に出てきたのは蛙が潰れた様な声であった。

思わず声をあげてしまい、此処が公衆の場であることにハッとして辺りを見回す。そして誰も居ないことが分かると安堵の息を吐いて、メールの中身を確認する。

送り主は父、メールには「再来月の第一日曜日、休みを取ったから一度帰って来て成績表を見せなさい」と書かれていた。

再来月の第一日曜日と言えば8月の中旬、詰まりは夏休み真っ只中。

娘が家出同然で出ていったにも関わらず、連絡を取るのが遅いうえに漸くメールをしてきたと思ったら内容は成績のこと。

仕事が忙しくて連絡を取るのも難しいことは知っている。けれど、漸く連絡してきたと思ったら内容は成績についての一択だけとはこれいかに。

自分で言うのも何だが、一人娘が家を飛び出していったと言うのに心配じゃないのかあの父親は!!

勝手に一人で飛び出していった私も悪いが、もっと心配してくれても良いじゃないか!

実に薄情である。

成績と世間体第一の実に父さんらしい冷たいメールの内容に拗ね、口を尖らせながら携帯を閉じる。

「絶対帰らん」

鞄の持ち手を力強く握り締め、ぼそりと小さく呟いた。

折角東京にまで来てアイドルデビューを果たしたのだ。此処で父さんの言う通り、成績表を持って家に帰れば最後。

成績のことについてネチネチ嫌味を言われ、アイドル活動のことを散々反対され、この一件についてこっぴどく叱られる。

そんなのは真っ平御免の助だ。

ふんっと鼻を鳴らして帰ろうとしたとき。私はスタジオのドア付近によく見覚えのある人物を見つけ、再び足を止めた。

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