月恋 第133話 「受動喫煙にお気をつけ下さい」 ページ39
「お言葉ではありますが、此れだけは言わせて頂きます」
「何だ?」
髪の毛から水滴がポタリポタリと滴り落ちる。服も肌にくっついてくるくらい濡れているものの、彼はやけに落ち着き払っている。
そんな彼を私は、鋭利な刃物を突き付けるようにキッと鋭く睨み付けた。
「人と話す時はしっかり煙草の火を消してから話してください。御存じだとは思いますが、此れは一般常識でありマナーです」
それから、と私は更に言葉を続ける。
朏さんは真っ直ぐ私の方を見詰め、話に耳を傾ける。なんでこの人は水を掛けられたのに何も言ってこないんだろうか。
そもそも、そんな状況には滅多なことがない限りなり得ないが、普通は10歳以上年下の後輩に水を吹っ掛けられたらぶちギレるだろうに。
朏さんは私を見詰め、黙ったまま何も言葉を発しない。
段々、この人は何をしたいのか。よく分からなくなってきた。
情けない私を叱責しに来ただけではない様な気がした。
「これ以上ご迷惑を御掛けしないように努力する所存ですし、迷惑を御掛けしていることを心からお詫び申し上げます。だから、だから…………」
けれど、今はそんなこと関係無い。
一歩前に出て、元々近くに居た朏さんとの距離を更に縮める。
「人にその煙草の小汚ない煙吹き掛けたこと誠心誠意謝れおっさんこの野郎!!」
そして私は彼の胸ぐらを両手で思いっきり掴み上げ、力一杯腹の底から彼を怒鳴り付けたのである。
自分がこんなにも大きい声を出せるなんて、今迄で出したことのない様な低い声が出せるなんて思っても見なかった。
辺りに自分の声が響き渡り、怒鳴り付けた自分が一番驚いている。
「Aちゃん?!」
そして私の思い切り過ぎた行動を唖然として見ていた堀宮さんが、更に驚きの声を上げた。
こんなにも大きい声で怒ったのは果たして何年ぶりだろうか。
私の記憶が確かなら、今から約3年前。
5年ぶりに会った父が、私の大切な大切なバイオリンを人の許可無く勝手に売り飛ばした時以来である。
あの時は今以上に酷く怒りを露にし、父と今世紀最大ではないかと思うほどの大喧嘩をした覚えがある。
でも、状況的には今現在の方が危険な気がした。
目の前の大先輩を怒鳴り付け、心のうちが少しスッキリした後、やけに冷静になった今、自分がどれだけ大変なことをやらかしてしまったのかを実感する。
そして、一瞬にして頭に昇っていた血の気が引いていったのである。
――――――――ヤバい!
月恋 第134話 「食ってやる」→←月恋 第132話 「煙草の煙」※話の内容に少しご注意下さい
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櫻餅(プロフ) - 2次元大好き人間!!!さん» コメントありがとうございます。不定期更新ですが頑張ります。これからもこのお話を宜しくお願いします。 (2018年3月21日 12時) (レス) id: eb7f0e71e0 (このIDを非表示/違反報告)
2次元大好き人間!!! - 続編おめでとうございます!これからの夢主ちゃんの成長が楽しみですね!!!更新頑張ってください!応援してます! (2018年3月21日 11時) (レス) id: 6896f5a2c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2018年3月13日 2時