デビュー曲と誓い ページ36
アイドルの笑顔とは何か、どんなものか、研究に研究を重ねて、口角まで細やかに計算し尽くして形成された笑顔。それは、見る人の目によっては酷く人工的に映るようである。
メディアへの露出は少しずつ増えてきたものの、それはただの便利な賑やかし要員としてであり、TVには相も変わらずどちらかというとほぼ背景的扱いとしてでしか出演出来ておらず。姉のように、その場の絶対的な主役として幾つもの番組に呼ばれるなど夢のまた夢、という日々を送っていた。そんなある日の放課後の事である。
「デビュー曲、ですか……」
突然、社長に呼び出されたかと思ったら事務所に着いて早々、デビュー曲の話題を持ち掛けられて動揺を隠せずにいた。
「うん。少しずつテレビ出演も増えてきたし、そろそろいいかなと思ってね」
今までは知名度を上げるため、あまり役に立つことは無かったがユーチューブ配信を主軸に活動してきた。しかし、その成果が見えないことからか、とうとう社長も見切りをつけてきたのだろう。だが、デビュー曲を出してみたところで結局は同じ事。
失敗できない、絶対に成功させなければいけない。そんな強い思いに押し潰され、歌って踊る楽しい気持ちよりも緊張が勝って。声が震え、リズムに乗れない酷いデビュー曲の仕上がりになってしまうだろう。そしてこれ以上の知名度アップに繋がらなかった場合、私は最悪クビになるかもしれない。
テーブルの上へ、ご丁寧に差し出されたアイスコーヒー。その中の氷がグラスの縁にぶつかりながら溶けていく様をぼんやりと眺め、私はもしもの話を脳内で繰り広げていく。
「Aちゃん……?」
うつむき、いつまで経っても返事をしない私の名前を心配そうに呼ぶ社長の声ではっと、我に返った。
「A、もしまだ自信がないなら、無理せず断っても大丈夫だぞ?」
あまりにも私に覇気がないと感じたのか、付き添いとして一緒に話を聞いてくれていた黒月さんからも心配される始末。
「いえ、やります。アイドルデビューしといて、いつまで経っても自分の曲がないのはおかしいですし」
けれどいつまでもここで迷ってはいられない。私はどんな手を使ってでも、今度こそは姉を見返してやるのだと誓ったはずだ。だったら、もう腹を括るしかない。
制服のプリーツスカートを握りしめ、私はひきつった笑いを浮かべて前を向いたのであった。
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snow(プロフ) - 勉強など大変だと思いますが、頑張って下さい!長々とすみません。それでは、またの更新楽しみにしてます♪ (2023年3月27日 13時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - 乙葉さんが、優しいのか判らないけど、配慮が欠けて見える気がします。私は、空君みたいにヒロインちゃんを応援してくれる人は、実は結構いると思います。だから、やりたいことをやったもん勝ちだと言う、勇気100%の言葉を贈ります。 (2023年3月27日 13時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - こんにちわ♪久々の更新、待ってました!ヒロインちゃんは、大器晩成の努力家なんだと思います。少しずつ、成果が出ればと思います。努力は決して、無駄にはならないと思います。今は、冬の様に辛くても、いつかは春の様に花開くと信じてます。 (2023年3月27日 13時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - しゅるさん» こんにちは。ご指摘ありがとうございます。 (2021年12月17日 9時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
しゅる - こんにちは。あ、あの、『結局、折れた結果がこれである』に出てきた黒月さんは、Procellarumのマネージャーですよ…今さらですみません!細かいですけど、ツキウタ。ファンなので…とても面白い話で楽しく読んでます!無理のない更新を頑張ってください! (2021年12月12日 10時) (レス) @page5 id: 29acc038ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2021年11月30日 10時