永遠の二番手によるヒロインポジション略奪計画

頼れる我らがお兄ちゃん！ ページ11

「寮生活ぅ？」

吉祥寺にある5階建てのマンション「サンライズ・レジデンス」のとある一室に、朝日奈家十一男である侑介くんの声が響き渡った。

「そう、今度から渋谷にあるツキノ寮に住むことになったの」

ツキプロと契約してから数日後。

契約書も受理されて準備が整ったと連絡が来た際、月野社長から提案されたのは寮生活だった。

最初は断ろうとしたのだが、あれよあれよと言いくるめられ最後には寮生活することに頷いてしまっていた。私ってば、ほんと馬鹿。

再び断ろうとするもその先は言わせないとばかりに電話をぶち切られてしまった……という訳で私は来週からの寮生活に向け、頼れる我ら朝日奈家十一男の侑介くんに手伝ってもらいながら荷造りをしているのである。

「それ、大丈夫なのかよ？」
「なにが？」

侑介くんが荷造りする手を止めずに、こちらへと心配そうに問いかける。私は、その意味が分からず首をかしげた。

「オメー、大猫被ったまま生活する気か？」

侑介くんの言葉に、CDや写真集を段ボールに詰めていく手が止まった。

さすがは付き合いが長いだけあって、痛いところを的確に突いてくる。

確かに、一つ屋根の下の共同生活において、そこに住んでいる方たちとの接触は避けられない。

四六時中笑顔を貼り付けて生活しなければならないとか、それなんて地獄？

外行きの笑顔を作るのも、乙葉みたいな明るい女の子を演じるのも疲れるのだ。

笑うたびにひきつる頬、自分を偽るごとにどんどんと磨り減っていく精神。

本音をぶちまけることもできずに、行き場を失ったストレスだけが溜まっていく。そんな生活を想像しただけで胃が痛みだした。

「お、おい、大丈夫か？！」

胃を押さえて踞る私に慌てて駆け寄り、背中を擦ってくれる侑介くんの手がとてもあたたかい。

「行きたくないなぁ」

背中に感じるぬくもりについ、本音が溢れた。

実際、十人以上いる朝日奈兄妹の中で私と唯一血が繋がっているのは乙葉だけ。そんな中でも、みんな私たち姉妹を可愛がってくれる。だけど、やっぱり出来の良い乙葉と比較されることもある。

その苦しさや本音を打ち明けることが出来るのは侑介くんと九男の昴くんだけだったりする。だからこそ、私は朝日奈家をあまり離れたくないのだ。

「辛くなったら、いつでも帰ってこいよ」

彼の優しさに、じわりと目頭が熱くなる。ぽろり、自然と流れた一粒の涙。それを悟られぬようにしながら、私は小さく頷いた。

すっかり女の子らしくなった妹の手を握ったときの兄貴の心情について述べよ→←穢れた私と綺麗な私……捨てるべき私はどちらでしょう？

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