真菰という少女 ページ10
近くにあった切り株に腰を下ろし、頬杖をつきながらおっさんと老人の取っ組み合いを眺めて約小半刻経った頃であった。
家の扉が開き、中からひとりの少女が顔を覗かせた。
「あれ?騒がしいと思ったら、鷺澤さん来てたんだ」
そして、何処か謎めいた雰囲気を持つ可憐な少女は肩口まで伸ばされた外はねの髪を揺らし、周りを見渡して私を見つけるや否や、ぱぁっと、その澄んだ瞳を輝かせて花が咲き乱れんばかりの笑顔を浮かべて駆け寄ってきたのである。
「あなたが、Aちゃん?」
「ひゃ、ひゃい!」
小鳥のさえずりのような、涼やかな声で名前を呼ばれて、動揺のあまり思わず声が裏返った。
「ふふっ、鷺澤さんから話は聞いてるよ。ここまで来るの、大変だったでしょ?」
「あはは……まあ、かなり」
山の中に仕掛けてある罠の数々を思い出しながら苦笑を浮かべた。
「あの二人の喧嘩、まだ続くと思うから、先に中へ入ってお茶にしようか」
やわらかい口調で私の手を引いて家へと招き入れる彼女に、そういえば、と問い掛ける。
「あなたのお名前は……?」
私の問いに、少しだけ歩みを止めて彼女は此方を振り返り――
「私は真菰。鱗滝さんの弟子だよ」
少しだけ口角を上げて微笑みながら、そう告げた。
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2021年5月27日 0時