天狗の面 ページ8
「ぜぇ……ぜぇ……げほっげほっ」
登り始めてから、分かったことがある。
この山は、私たちが住んでいる山よりも圧倒的に空気が薄く霧が濃い。しかも、所々に罠が仕掛けられているのだ。それをギリギリ避けながら、おっさんを見失わぬよう追い掛けていくのには無理があった。
肺に入ってくる酸素はごく少量。息を吸っても、吸ってもまだ足りない。
上へ、上へと行くほど荒くなる呼吸に覚束ない足元。
次第に酸欠で頭がくらくらしてくる始末。
これではいくら体力があったって、その前に力尽きてしまうのがオチである。けれど、諦めたらここで終わりだ。
あのおっさんは、例え私がこの場で倒れても決して迎えに来てはくれないだろう。
そんなことになったら、妹の最期の願いがまた果たせなくなってしまう。
「よしっ」
パァンッ、と勢いよく両頬を痛いほど叩き、気合いを入れ直す。そして、もう胡麻粒みたいな小ささになるほど遠退いてしまったおっさんの背中を再び目に映し、私は、限界に近い足を無理やり動かしながら走り出した。
登るごとに多くなっていく罠を掻い潜り、濃くなる霧を振り払うようにして走り続け、一体どのくらい経っただろうか。
ようやくおっさんの足が止まり、こちらを振り返る。それにようやく追い付いた私は、息も絶え絶え、足も上手く立っていられないほどふらついている。
目の前がチカチカする。息が上手く出来ない。
どうしよう、どうしよう、このまま死んじゃうのかな。
早く息を整えようと焦り、余計、呼吸を乱す私の前に突然、天狗の面を被った老人が現れた。
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2021年5月27日 0時