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実力主義な厳しい世界はどこも変わらない。 ページ4

最終的に逃走した私をおっさんが鬼の形相で追い掛け回し、その日の稽古は終了。

結局、鬼殺隊の元風柱とやらだったおっさんに勝てるわけもなく。

呆気なく捕まった私は尻叩き百回の刑に処された。そして、次の日の稽古も、また次の次の日の稽古も、そのまた次の次の次の稽古も逃げ出した私にとうとうおっさんの堪忍袋の緒が切れた。

「いい加減にしやがれこの小娘! 毎回毎回、ビービー泣きながら逃げやがって!」

今日も今日とて刀を放り出し、脱兎の如く逃げ出すも呆気なく捕獲され、挙げ句の果てには、筵を使って簀巻きにされて、見知らぬ山奥へと置き去りされてしまったのである。

「そこから一人で帰って来れたら許してやる」

身動きの取れない私を背に、おっさんは軽い足取りで山を降りていく。

徐々に見えなくなっていく背中を睨み付けながら、何とかして自分の体に巻き付けられた筵から抜け出そうともがく私をおっさんは振り返り、にやりと意地の悪い笑みを浮かべ、

「そういや、ここの山。狼が出るらしいぜ」

今思い出したかのような口ぶりで、そう言い残し、再び背を向け歩き出した。

「嘘でしょ……」

すっかりおっさんの姿も消えて、ひとっこひとりいなくなった山奥で。簀巻きにされ、身動きの取れない私はただ、絶望するしかなかった。

狼、その単語だけが私の頭のなかを駆け巡る。
まだ見ぬ鬼という存在も怖いが、狼も怖い。この世は恐ろしいものだらけである。

今は、あの生まれ育った遊郭が酷く恋しい。
実力主義な厳しい世界ではあったが、“ここ”よりは余程平和だった。

「どうして、こんなことに」

目に涙を溜めて、空を見上げた。
空を赤く焼いていた太陽が西へと沈む。徐々に暗くなり、辺り一体、薄気味悪い雰囲気を醸し出す。

烏たちがカァカァと鳴きながら私の頭上を飛んで、赤子の待つ巣へと帰っていくのが酷くうらめしい。

半べそをかきつつ、もぞりもぞり、身体を捻り、なんとか簀巻きから脱出した私は辺りを見渡した。

生まれて初めてだ。一人で山に取り残されたのは。

当たり前である。あの癇癪持ちの姐さんでさえも、頭から冷水をぶっかけるか、物を投げるか、手を上げてくるか。そのくらいのことしかしてこなかったのだから。

過去にあった姐さんからのキツい仕置きを思い出しながら、よいしょよいしょと山を下り始めた。

遺言→←時既に遅し、とはまさにこのことである。



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作者名:櫻餅 | 作成日時:2021年5月27日 0時

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