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それが偶然でも必然でも、出会いたくはなかった。 ページ20

二人の姿を眺めながら、私はどうやら寂しそうな顔をしていたらしい。

「千寿郎、買い物を頼んでも良いだろうか。それと、良ければAくんも一緒に行ってやってくれないか?」
「……はい」
気を遣ってくれた杏寿郎さんに、少し、外の空気を吸ってくると良い、と背中を押されて千寿郎くんと共に街へ出た。

「ごめんね、千寿郎くん。気を遣わせちゃって」

感情を隠しきれず、他人に悟らせてしまうのは未熟者である証だと吉原の姐さん達が言っていた。

情けなし、と苦笑いを浮かべれば、千寿郎くんは私の手を遠慮がちに握り首を横に振った。

「そんなことありません。何か、悲しいことがあったなら、それは仕方のないことです」

彼の言葉に涙が出そうになるも、それをぐっと堪える。
此処で泣いて、更に彼を困らせてどうするのだ。

「うん、ありがとう」

炎のように暖かくて優しい兄弟に感謝しつつ、彼の買い物を手伝う。しかし、街を出歩くのはこれが初めてで。
人々が行き交い、多くの店が賑わっている様に目を奪われて、中々進まない私を千寿郎くんが目的の店まで一生懸命引っ張っていってくれた。

「本当にごめんなさい」
「街に出るのは初めてだったんですね」
「……はい」

吉原生まれ吉原育ちの人間には何もかもが珍し過ぎたのだ。
年下の男の子に面倒をかけてしまったことを猛省しつつ、頼まれたものを買ってかごに入れていく。
野菜の良し悪しを見極め、値切れるところはしっかりと値切る千寿郎くんは正に頼れる主夫であった。

足手まといにしかならない私は、荷物持ちとしての役目だけでも果たすべく。買ったものを落とさないように、しっかりと抱えて彼の後ろを付いて歩いた。

「そろそろ帰りましょうか」

日が暮れて、烏が赤子の待つ巣山へと帰る頃――ようやく買い物を終わらせて私達は帰路へと就いた。

他愛もない話をしながら田んぼの畦道をのんびりと歩いていれば、ふと、背後に異様な気配を感じて立ち止まった。

ぞわりと背筋が凍るような視線を背中に感じながら、恐る恐る振り返る。するとそこには――

「今日はついてるなぁ。柔らかそうな肉をした子供が二人も通りかかるだなんてなぁ」

鋭い牙の生えた口からだらりだらりとだらしなく涎を垂らしながら、妖しい光を目に宿した異形の者がいたのである。

鬼さんこちら、手の鳴る方へ→←煉獄兄弟



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作者名:櫻餅 | 作成日時:2021年5月27日 0時

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