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春親は箒で掃きながら、ぽつぽつと話し始めた。
「昨日、親戚の人達と会って…怖くなっちゃったんだ…たぶん叔父さんのお父さん、僕のお祖父さんが居て、前にもあの人と会った事を思い出したんだ」
そう…それは本丸へ来る直前の事。
「ここでの生活が幸せだから…忘れていたのかも」
春親にとっては、忘れるはずの無い記憶。
「お父さんとお母さんが居なくなった次の日…僕がそれを知らされた日」
石切丸は春親の両親が亡くなった事を主から聞いていて、ここへ来て直ぐは今では考えられない程塞ぎ込んでいた事をしばらくしてから聞かされていた。
しかし、当の春親は石切丸が来てからはそんな様子を感じさせてはいなかったのだ。
「覚えていたい、忘れちゃだめなのに……少しでも思い出すと苦しい…」
春親は苦しそうな声だが、表情は穏やかで掃く事は止めない。
パシッーー
と春親のその手を大きな手が止めた。
「そうだね…その感情は、とても複雑で他人には完璧に理解出来るものじゃない」
石切丸はその大きな手で春親の頭を優しく撫でる。
「私達も…この身を得て人間の様々な感情を目の当たりにしている」
落ち着いた声で話す石切丸は春親にとってはとても大きな存在に見えた。
実際に大きいのだが、そう言う事では無い…。
「若…少し話が変わってしまって申し訳ないのだけど…私はね、ずっと不思議な事が有ったんだ」
春親は不思議そうに石切丸を見上げる。
「どうして人の身は、辛いのに笑ったり…嬉しいのに泣いたりするのだろうね？」
「それは…よく分からないや」
「感情は自分のものだ。他人に迷惑を掛けなければ曝け出しても良いと思うよ」
「迷惑を掛けてしまうかも…叔父さんに心配させちゃうから」
春親は陰鬱な表情で呟く。
「主は他人じゃないだろう？」
「そう、だけど…」
「私達とも、そんな軽い縁で繋がっている訳じゃない…」
「うん…」
春親はふと思う。
自分は何て鈍感なのだろうと…。
「(叔父さんは…帰りの車でも気に掛けてくれていたのに、国広だって…光忠も…倶利伽羅も…鶴さんも…みんな)」
春親は石切丸に笑ってみせる。
石切丸は困ったように笑う。
「その笑顔の心は？」
「これは正直な表情だよ、今の僕の気持ち」
「若は泣いてくれるのかと思っていたが、私の見当違いだった様だね…否、これはこれで良いのかな」
石切丸は笑うと、集まった落ち葉を塵取に入れる。
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作者名：結桜 | 作成日時：2018年1月26日 22時
