【刀剣乱舞】君の命を繋ぐもの【男主】 (ページ20)

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「あの…」

ずっと黙って居た春親だったが、笑顔の男に口を開く。

「僕には、今よりも良い生活と言うのが思い浮かばなくて…あなたをよく思っていないとかではなくて、その…」

言葉が上手く思い付かない春親に、黙って事の成り行きを見ていた冷たい男が口を出す。

「二人共、春親を手元に置いておきたいと言うのはよく分かった…どちらも後継が居ないからな」

「そんなっ…ハルは大切な家族ですから」

「私としてはどちらが引き取ろうと構わないのだ。幸い春親はこうしてよく育っている…後は審神者としてどう育てていくかだ」

「この子を審神者にするかは分かりません…それは本人の意思を尊重すべきかと」

和泉は落ち着いて言うが、男は目を細める。

「お前の元へ置いておけば、審神者について学ぶ事ができると思い後見を譲ったのだが？」

「こちらにはそんなつもりはありません。ただ春親を大人の勝手な都合で振り回したくなかっただけです」

叔父の真剣な姿に、春親は緊張していた気持ちが少しだけ安らいだ。

それと同時に周りの自分を見る目が怖くなる。

「(親戚…なんだよね。もっと家族みたいなものだと思ってたのに)」

早く本丸へ…”家族”の元へ帰りたいと思った。

それ以降春親には話している内容が頭に入ってこなかった。

「今日はもう遅い。続きはまた改めてとしよう」

中心に居る男が言うと解散となった。

春親は笑顔の男に挨拶をされ咄嗟に返した後、和泉に手を引かれ山姥切と合流した。

暗い表情の二人に山姥切は何も言わなかった。

車に乗り込むと和泉は微笑んで後部座席の春親を振り返る。

「久しぶりに現世へ来たから、何か食べて帰ろうか」

春親は俯き気味で「早く、帰りたいな…」と答える。

「そうだね」

和泉は頷き、黙って車を発進させた。

春親は先ほど居た場所で、自分に向けられていた視線によって嫌な記憶を思い出した。

記憶、と言う程鮮明なものでは無いが…記憶の中にある強い感情を再び感じてしまったのだ。

辛く、悲しい……寂しさ

突然居なくなってしまった大切な人達

物心つきたての頃の記憶で、もう忘れかけていたはずだった。

「(大丈夫…今の僕は一人じゃないから)」

自分に言い聞かせていた。