百七 ページ7
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「忠義さんも脱いで。」
「こ、これを？」
「そう、亡くなったって思わせるに必要やねん。」
「他に着るのはないんやけど。」
「あっちの対岸には章大がおるから安心してや。」
櫂(渡し舟で使う棒の事)を使い岸の反対側に向かって進んでいく。が、慣れた人でない分多少は流されつつ何とか岸に向かって行く中で忠義は黙って動く灯りを見ていく。
「もう……紫苑の名前捨てて大丈夫でしょ。」
「りゅう……」
「夜が明けたらほんまの名前に戻って生活したらええねん。髪の毛は長いと目立つからそれなりに手入れして、仕事探して江戸の町で生きれば。信ちゃんが助けてくれるし。」
「なんだそれ。」
「僕の三味線弾きの仕事なんて大した金にならへんもん。」
「隆平が助けたんだからそこはお前が頑張れ。」
「りゅうへい？」
忠義が呟くと信五は笑って言う。
「あぁ、隆平。俺も章大も隆平に助けられた。」
「助けていませんけど。」
「そこがお前のええとこや。」
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ゆっくりと船は岸に着けば泣きそうな顔でいる章大が風呂敷二つを大事に抱えて「遅いんだから。」なんて口にしていく。信五に促され着替えるように言われ忠義は頭を下げてから隆平を見た時だった。
黙って対岸を見ていくその目の色が違うと気づき目を擦る。
が、なんら問題ないと気づき安心する。
「りゅうへいさん。」
「りゅうでええのに。」
「いえ、もう店の客やないんやし。そこはちゃんとせな……」
「なら隆平でええですよ。」
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――――いつもと変わらない。さっきのあの目の色はなんだったんだろう？
忠義はそう感じながら隆平を見ていた。
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作者名：瀬奈 | 作成日時：2021年11月5日 16時
