月逢雲夜四巻 (ページ5)

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百五ページ5

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『紫苑が逃げた!!!』

店の中から聞こえる無数の声は驚きと罵声と必死の騒ぎとなって行く。

通りからも聞こえ向かいの店からも『抜けが起きた!!!』花街が一気に騒がしくなり人々が蠢いていく。

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草履などない。

裸足で向かうのは大川の川岸。

身を隠せるように信五の用意した小屋までは橋向の先で、川を渡るに身を隠せる渡り船を用意していた。

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「もうすぐや……あの先……ま……で……」

必死に走っていくが息も絶え絶えになり忠義が地面に両膝をつくと追手の姿が見える。

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――――これ以上は無理や。

結んでいた紐を外し「はよ川まで!!!」そう声を上げると忠義は首を左右に振る。

「りゅう!!!」

「はよ！捕まったら、今までの事が全て無意味や。行け!!!!すぐに追いつくから、早く!!!!」

微かに頷き走り始めると花街から来た男の姿を見つけ胸元にある短刀を手に取り息を吐き出す。

「逃がさなあかんねん……僕は……」

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目を伏せ

面を少しだけずらし

人を確認した時だった。

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『大丈夫やって、目覚めているんやで？お前のが上や。』

カラスの声が聞こえ一瞬驚いた顔になった時だった。

追手の男が脇差から刀を抜き隆平にめがけて振り上げた時だった。

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――――何かが起きた。

――――カラスの言うてた力ってこういう事なんか？

足元に転がっている何かを見て先発で来た男は腰を抜かし「た、助けてくれ!!!」と叫ぶ。何が起きた
のか分かっているのは隆平だけかもしれない。口元を拭ってすぐに川の方に向かい走り続けると驚い
た顔をしていたのは待っていた人だった。

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「りゅう、血が。」

「返り血やから。はよ、逃げへんと追手が来てしまう。」

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