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店が何かの雑誌に出たって話を聞いたのはここ最近。
だからコンスタントに客が入るって凄い事だと思う。
お客さんが来ることはこちらとしては嬉しいんだけど、俺としてはクオリティを下げたくないから必死になってしまう悪いクセ。
そうでもしないとゆゆちゃんというキャラクターを演じることは出来へん。
女装が好きで勤務している人なら何ら問題ないと思うんやけど、俺の場合は飯を食うためって言う重要度があんねん。
女装はメインちゃうし。
店から出たらただの男やもん、そこは割り切らなやっていけへん。
「化粧直してくる。」
そうぼやいてバーテンに声をかけて控室に入る。先生の家で見た疲れ切ったお肌で撮影したチェキを思い出したから。
あれはアカン、絶対アカン。
ゆゆちゃん的にアウトな状態やん。
マジに……化粧がはげ内にファンデーションに手を出すしかないかもしれん。
淡い色のリップを塗ってから不意に手が止まる。
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―――好きになりそうです
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頭をよぎる先生の声
あれは恋してる声
丸山先生のモトカノがちゃんとしていたらあんな恋心は抱かないんちゃうの?
まともな先生やろ?あかんって。
頼むから丸山先生はそっちの方向に走らないで欲しいって心の中で念仏を唱えた。
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仕事を終え、階段を下りながら見える街はまだ明るくて夕方の感覚。午前過ぎているのに帰れない人がまだたむろしているのかもしれへん。この日ごとの日は愛車のベスパちゃんで来れへんから帰りはもっぱらタクシーになるのが悲しいんやけど。タクシーに乗り込み場所を告げてからスマホを操作する。
たまに分からなくなる
俺って何がしたいんだっけ?
カメラで食っていきたい言うて実家出て何しているんだろ?
この仕事して余計そんな事ばっかり考えてしまう。
夢だった仕事を自分で辞めて関係ない仕事しちゃっているんだから親にも言えへん。
タクシーが止まりいつものように料金払って領収書を貰って下りるのは家の近くのコンビニ。
気分が沈んだから酒を買って帰るため。
買い物袋をぶら下げてマンションのエントランスに入ってポストを確認して届いた手紙を持って3階
まで階段を上がっていく。
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作者名:瀬奈 | 作成日時:2021年3月23日 16時