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太陽の日差しは春なのに、日中はほんまにコートもいらないくらいになったのは5月の終わりに近づいた頃。
エアコンはまだ早いし、だからと言って窓を開ければ風は冷ややかでどうしたらいいか分からなくなる。
助手席から見える景色は久しぶりだって感じるのはなんでやろ？
「昼は知り合いの店に予約を入れたの。」
声を弾ませて言われても心が動かへんのは戻って来たくなかった場所にいるのが分かっているから。
余計に気が乗らへん。
サングラスを少しだけずらして歩道を見ると、見覚えのある街並みでほんまに戻ってきたんだって思う。
「機嫌悪い？」
何て言われても返事する気にはならなくて小さく息を吐き出すと「そっか。」なんてすぐに返事を言うたのは運転席にいる女。
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「引っ越しは全てお任せにしたんだから怒らなくてもいいじゃない？」
少し甘えた声で言われたんやけど、ほんま勘弁って思う。
ポケットから煙草を出して銜えてからスマホを操作すると不安そうな顔してこっちをチラ見繰り返し。
「運転集中しろや。」
「だって、たぁくん怖いんだもん。」
「引っ越しをしたくなかっただけや。」
「分かっているけど、けど、たぁくんを他の人に取られたくないんだもん。」
あぁ、ほんま女はめんどくさい。
食わせてもらって楽させてもらっている以上、文句言えへんけど。
通知を確認してから即返事を返していくと、またチラ見してくる。
「気になる。」
「運転。」
「分かっているけど。」
「俺が誰に連絡しようがええやん。別に、遊ぶわけちゃうで？」
「本当に？」
「ほんま。昔世話になった人に連絡しただけや。」
「ならいいけど。この先にあるイタリアンを予約したの。たぁくん、食べたいって言ってたでしょパスタ。」
「そうだっけ？」
「もう、覚えてないの？」
タップしてからすぐにポケットに入れて煙草を指に挟み目を伏せた。
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-----またね
丸山さんに告げた言葉が最後になるなんて思いもせんかった。
いつも通り仕事をして、のんびり楽しく過ごしていく。
ずっとずっと思っていた。
でも、そんな甘くはなかった。
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作者名：瀬奈 | 作成日時：2020年11月17日 16時
