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「なに？」
信ちゃんの声に俺は笑ってしまう。
「なんでもない。」
「一瞬だけ心ここにあらずやったな。」
「……まぁ。」
「アンニュイ？」
「デリケートなの！」
なんて言い返すと大笑いされた。
「忘れろ。」
「無理だって。」
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そう、無理……あの人の事を忘れる事なんて
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ケーキをこよなく愛する人は煙草やアルコールを断って向き合う人が多いって聞く。
向き合うパワーが違い過ぎて、ほんまに「ごめんなさい！」って言いたくなる
専門学校も平常運転で進んだし
修行する店も3か所で経験値を積んで、今の店に落ち着いたけどほんま俺がここのパティシエでええの？なんて思ってしまう。
早起き苦手なのに、なんで早起きの仕事選んだんだろう？
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「眠い。」
「何時まで飲んでいたんです？」
「3時かな。」
「寝てないじゃないですか。」
「毎度の事だけど、今日はあかん。」
「僕は無理です。」
素直な答えが来て「だよねぇ。」なんて返事を返しちゃう。
後輩の中島は真面目で俺とは正反対でちょっとだけ苦手なわけで。
酒は控えめ、煙草は吸わない、俗に言うスィーツに向き合っている人だって事。
俺の下じゃいやだろうなぁ……なんて思う。
椅子に座って今日作る予定のケーキの種類を確認していくと背後からのぞき込む気配を感じて振り返ると奴はいた。
「飲みすぎ。」
「そこまで飲んでへんし。頼むから背後からのぞき込むの止めろって、キタミツ。」
「真正面に行けないから背後から。オーダーがあって、ショコラのホールを夕方で４号。」
「誕生日か何か？」
「お祝いってことで。リーフを増やしてほしいって話。」
「チョコ？」
「難しい？」
「いや、今日は中島おるから大丈夫。」
キタミツから受け取ったオーダー表をホワイトボードに付けてから作業工程時間を逆算していく。
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チョコを作るのは嫌いやない。
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作者名：瀬奈 | 作成日時：2019年12月3日 18時
