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「だから、マルがそう言う感じだって知ってあの時は『やるな』って思った1人。」
悪い顔で言うよ、章ちゃん
「たださ。」
煙草を指に挟み一瞬考えてから言う。
「弟さん……どっかで見た事あるんだよな。」
「どこかで？」
「マルと一緒にいる時より以前に何かで見た記憶があるんやけど思い出せなくて。何だったんやろ……」
考え込む章ちゃんを見ながら
僕は目を伏せる
記憶があっても思い出せない
記憶がなかったら思い出せるわけがない
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いざ失くした記憶を呼び起こそうなんて無理なのは僕が一番分かっている
何をしても
誰と一緒にいても
あの優しい声が聞こえ
ぽっかり穴が見えてそこに誰かを当てはめなきゃいけないって焦りだしたなんて口にできるわけがない
なかった事にはできるわけ……
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「マル？どうした？」
涙が止まらない。
止まらない
僕はどうすればいいのか分からない
僕は……
どうすればいいか分からない……
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「びっくりした。マルから電話来て。」
彼にそう言われて僕は小さく会釈をする。
休みの日に駅前のコーヒーショップに呼び出したのは以前僕を見て「マルだろ？」と声をかけて来たひと。
「すいません、生田さんのお休みの日に。」
「別に大丈夫だって。横山主任に聞いたの？俺の連絡先。」
素直に頷くと生田さんは「そっか。」なんて口にしてアイスコーヒーを飲んでいく。
「なんとなく主任から聞いたけど、記憶の病気なんだって。」
僕は素直に頷くと口を尖らしてから生田さんは言う。
「俺が知っている時期の記憶がないってこと？」
「そうなります。」
「結構大変だったね。なんで、そんな症状に？」
悪気があって聞いていないのが把握できるから僕は素直に答える。
「会社入って1年目に事故に遭いまして。」
「事故？」
「車同士の事故に巻き込まれてその時に頭を打って、その瞬間からなくて。」
俯いて言う僕の姿を黙って見ていくのは、嘘をついているんじゃないかって言う感じだと言うのはすぐに分かる。何度もそれで僕はしんどい思いを繰り返したからちょっとした暴言には耐えられる免疫は付いている。
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作者名：瀬奈 | 作成日時：2019年12月3日 18時
