Friend Ship

顔は見ないまま。 ページ33

そこからの記憶は、ひどく曖昧だった。
顔色が悪いからと仕事を早く上がらせてもらった。

鏡に映る私の顔は、泣いた跡が残ったまま。

A「明日…早いな」

部屋着に着替えて、リビングのソファーに座る。

違和感を感じた。

いつもソファーの左には源さんがいて
ギターを弾いてはコードをノートに書く。
私は、隣で本を読んでいたっけ。

横に誰かがいる幸せは、
こんなにも色濃く残るものなんだ。

出会って三ヶ月とちょっと。
あまりに早い共同生活の終わり。

当たり前を当たり前に捉えすぎていた
私の鈍感さと、言えない臆病さが
長く入れるはずだった二人の時間を
消してしまった。

ボーッとテレビを見ている。
楽しそうな風景に嫌気がさし、
部屋にこもった。

少しして、玄関の音で目が覚めた。

源「ただいまです。Aさん」

リビングに響く声。
いつもより優しく聞こえた。

ガサガサと自分のものをまとめているような
音がして、なんて嫌な音なんだと思う。

涙が、止まらない。

源「…Aさん。寝てますか？」

A「…」

源「入りますね」

突然のことに寝たフリをする。
涙がバレてしまいそうだ。

源「明日の朝、出ていきますね。荷物はまとめれたので。」

A「…」

源「…おやすみなさい。」

源さんは、そっと頭を撫でてくれた。

そして。
頬に優しいキス。
何か冷たいものが頬にあたる。

ガチャン。

いつもより響く音と。
頬に残る涙は、いつもより悲しくさせた。

もう君とは会えない。→←このままいけば。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す