イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ10)

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210.一冊。ページ10

お土産売り場の一角に本のコーナーがあるのに気付いた。

「先生、本！」
「あー、ホント」

コーナーに走り寄って、本棚を一通り眺める。
背表紙だけで気になった本を一冊、指先で抜き出してみた。

この瞬間が好き。

どんな表紙なのかな、ってワクワクする。

「クラゲだ」

私が選んだそれは、クラゲの本。
と言っても、クラゲの生態が書かれてるような専門書では無くてクラゲの写真集。

パラパラと捲ると、色んな形のクラゲが水中を漂ってる写真。
脱力しちゃいそうな写真もあれば、ハっとするような写真もあって面白い。

先生は隣で海を題材にした小説を手にしてる。

「何か良い本、ありましたか？」
「んー、ばーちゃんちかオレんちにあるやつばっかかな」
「有名な物が多い？」
「うん、海と言えば！って感じ。良いラインナップだと思うよ」

なかなか良いセンスだわ、ってちょっと偉そうに言った先生が自分でも偉そうだと思ったのかフフっと笑った。

「行く？」
「はい」

大きなガラス窓の向こうに見える空と海が、オレンジ色になり始めてる。

一日が、終わって行く。

「あ、ちょっと待ってて貰っても良い？」
「はい。どうかしたんですか？」
「お手洗いー」

ヒラヒラと手振って、先生はトイレのマークがある方へと歩いて行く。

私はその場で、窓の向こう側をジっと見詰める。

時間よ、止まれ。

先生と一緒に居る時は、いつだってそう思う。

夜よ、来ないで。

まだ、来ないで。

オレンジ色の空はとても綺麗で

それは綺麗であれば綺麗である程に、悲しい。

「何、黄昏てんの？」
「あっ...！別に黄昏てた訳じゃ...」

いつの間にか隣に戻って来てた先生が、軽く笑う。

「あれ？お土産買ったんですか？」

先生の手には、お土産の袋。

「いや、何か落ちてた」
「えー？」
「だから貰っちゃった」
「アハッ！それは、ちゃんと届けなきゃ泥棒ですよ？」

私が笑うと、先生も笑って

「お前にお土産」

その袋を、くれた。

「私に？何だろう！クッキーかなー！」

ワクワクしながら袋の中身を出すと、それはクッキーなんかじゃ無くて

「え...」
「本物は買ってあげらんないけど。どこで売ってるか分かんないから」

さっき、私が見てたクラゲの写真集だった。

「......嬉しい...」
「ンフフ、ホント？クッキーの方が良かったんじゃ無いの？」
「本当に！嬉しい！」

抱き着いちゃいそうなテンションの私に、先生は「こら！外ではダメ！」って教育的指導。