イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ9)

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209.海月。ページ9

海岸沿いにある水族館に着いたのは、料亭を出てから30分も経ってなかった。

「大野さんちの近くに何か無いかなー？ってネットで探してて見っけたのよ」

駐車場で車をバックさせながら、先生が言う。

「デートっぽいでしょ、水族館」

何度も切り返したりせずに、いつだって先生は一発で狙った所に車を停める。

「さ、行きますか」
「...はい」

デート...

改めて言われると、また緊張して来た...

だけど、先生はそんな私に気付いてるのか何も言わずに手を繋いでくれて

たくさんの家族連れやカップルで賑わう水族館の中へと、連れてってくれる。

入口で館内マップを貰って、イルカショーの場所と時間を確認して。

小さな水槽をいくつか見ながら暫く歩くと、大きな大きな水槽の前に出た。

「すげぇな...」

呟いた先生の横顔が、青く染まる。

何だか消えてしまいそうに見えて、ギュウ...っと手を握ると

先生は何も言わずに、ギュウっと握り返してくれた。

「ねぇ、先生。あれってクラゲ？」
「あー、そうだね」

周りよりも暗いスペースにポツン、ポツンと配置されてる水槽の中をクラゲがふわふわと漂ってる。

水槽に手を寄せて、その中を眺める。

ふわふわ、ふわふわ、上がったり下がったり。

「クラゲって、漢字で書くと？」

問題を出しながら、先生が私の横に顔を寄せて来た。

「海の月」
「正解」

月のように丸い傘が、いくつも水中を漂う。

吸い込まれていきそう。

「クラゲ、飼ってみたい...」
「簡単に飼えんのかね」
「どこで売ってるんだろう」
「ペットショップ？」
「見た事ありますか？」
「いや...見た覚えは無いな」

二人でクスクス笑う。

「あ、イルカショー始まる！」
「そうだな、そろそろ行くか」

手を繋ぎ直して、イルカプールへ向かう。

暗かった館内からプールのある外に出た瞬間、眩しさで先生が思いっきり目を細めたのが可愛くて

もうほとんどの席が埋まってて一番後ろで立ち見になったけど、それでもイルカを見てる先生の目がキラキラしてて

「賢いなー！」って笑う先生の声が、優しくて

私はきっと何年経っても、こんな寒い日には今日を思い出してしまうんだろうなと思った。

館内に戻って、お土産売り場を見て歩く。

別に何か買うって訳でも無いんだけど、お土産売り場はついつい見ちゃうのって何でなんだろう。

先生が「コイツ、肌触り良い」って、イルカのぬいぐるみの背中を撫でてる。