イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ7)

今日:1 hit、昨日:13 hit、合計:2,991,259 hit

207.裏の顔。ページ7

「何の話って...別に？」

大野先生がニッコリ微笑む。
二宮先生、漫画っぽい表現をしたらワナワナって感じ。

「じゃあ、おれ仕事に戻るからユックリしてってね」

サっと着物の裾を叩いて綺麗に立ち上がった大野先生が、部屋の入口に立ち尽くしてる二宮先生とすれ違う時にもう一度ニッコリして出て行った。

「...ムカつくわー...あの笑顔」
「そうですか？癒されますよ？」
「あの人の裏の顔知ってるから、全く癒されない」
「裏？」
「ま、誰にだって人には見せてない顔があるもんよ」

人には...見せてない顔...

「......先生にもあるの？」
「ん？」
「裏の、顔」
「オレ？」

先生が私の隣に胡坐をかいて座った。

「そうだね、あると思うよ」
「そう...なんだ」
「どうしてガッカリすんの」
「何となく...悔しい」
「何で。お前は見てるのに」

え？

どんどん俯いて行ってた顔を上げると、先生と目が合った。

「オレが人には見せてない顔、Aには見せてるはずなんだけどね」
「......えっ...！？」
「だってオレ、学校で彼女に見せるような顔はしてなかったでしょ」
「...分かんないけど...」
「分かんねぇのかよ！」

ブハッ！って先生が吹き出して、私の頭を雑にグシャっと撫でる。

「さて、そろそろ行く？お腹、満足した？」

頭に手を乗せられたまま訊かれて「大満足です！」って答えたのは、お腹もだけど私は気持ちも大満足してるなんて先生だってきっと分かってない。

部屋を出てロビーに出ると受付のカウンターに大野先生が立っていて、二宮先生が「お代はいくらー？」って訊いてる。

「いらないよ」
「え！？マジで！」

あ、先生すっごい嬉しそう。

「普通、お部屋会計でしょ？そこで貰ってないんだから、いらないって事」
「ふーん、シャレた事してくれんね」
「まぁ、おれじゃなくって母ちゃんがそうしてやれって言ったんだけどね」
「え？おばさん、居るの？お礼しなきゃ。どこに居る？会って来るわ」

大野先生がどうやらお母様の居る部屋を教えたみたいで、「ちょっと行って来るから待ってて」と私に言って先生は廊下を歩いて行った。

「そこ、座っときなよ」
「あ、はい」

ロビーのソファに座るように促されて、ストンと腰を下ろす。
和風でモダンなソファが素敵。

「結城さん」
「はい」
「これ、あげよ」
「これは...？」

大野先生から、そんな大きくも無い茶封筒を差し出されて

私が受け取ると、彼は「内緒だよ？」って小声で言った。