イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ26)

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226.イイオンナ。ページ26

先生の部屋は、相変わらず少し煙草の匂いがする。

私はソファに腰掛けて、先生はキッチンでコップにコーラを注いでる。

「ほい、どーぞ」
「ありがとうございます...」

コップを受け取ると、先生も隣に座った。

一口飲むと、炭酸が喉に引っ掛かりながらスルリと流れて行く。

「先生...？」
「ん？」
「何で...お家に連れて来てくれたんですか...？」

緊張で手が震えそうで、力を入れてグラスを両手で包む。

「だって、何か拗ねてたから」
「......」
「あのまんまは帰せないでしょ」
「......」
「言いたい事あるなら、ちゃんと言いなさい。『何でも無い』は嘘だろ？」

先生が私の手からグラスを取って、ローテーブルに置く。

「言わなくても分かってくれるだろう、ってのは驕りなんだよ？察してくれっていうのは、傲慢なんだ」
「......」
「それとも、オレには話せない？話したくない？」
「...先生...」

彼が何も言わずに、首を傾げた。

「私、『可愛い』って言われて嬉しくないのは初めてでした...」
「うん」
「子供扱いされてるのかなって...そう思って。私はもう大人なのに」
「うん」
「何だか、悔しくて...」
「そうだよな」

優しい笑い方。
私の好きな、笑い方。

「大丈夫。Aは大人だよ」
「先生...」
「気にすんな。な？」

頭なでなで。
これも子供扱い...って思うのに、やっぱり嬉しい。

「...運転免許、とります」
「へ？」
「そしたら先生、車でもお酒飲めるし！あっ！雨降った時にお迎えだって行ける！」
「フハッ！何それ」
「私も、先生に頼りにされたい...彼女...なんだし...」

ふんわり、と先生に抱き締められる。

ンフフって笑う先生の身体が揺れる。

「そんなコト、考えてたの？」
「そんなコトって...私は真剣に考えてるのに」
「フフッ、わるい」
「.....」
「嬉しいのよ、マジで」

彼が私のコメカミに口付けた。

相変わらず、冷たい唇。

「オレの彼女はイイオンナだね」
「そんな事は...」
「無いの？」
「...イイオンナになりたいな、とは思ってます」
「向上心、素晴らしい」

冷たい唇が、頬に触れて

鼻先に触れて

顎に触れて

焦らされる感じに胸がジリジリして、先生の腕をギュウっと掴む。

先生を見上げると

彼は、眉間に皺を寄せて何だか辛そうな表情で

けど決して悲しい顔じゃなくて

そうか、これが『切なげ』って表情なのかな...って思った。

だとしたら、きっと私も同じような表情をしてるはずだと思うんだ。