イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ21)

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221.あの日の答え。ページ21

私と花粉症との戦いが始まったのは、大学生になったと同時だった。

「先生」
「ん？」
「私、花粉症なんです」
「おぉ、大変だな」
「先生と一回お別れした時に花粉症になったんです」

先生が、首を傾げる。

「でも先生と再会できたから、治らないかなーと思って」
「フハッ！花粉症って一生モンなんじゃないの？」
「じゃあ先生にうつらないかな...」
「ここまで逃げ切ったんだから、もう見逃して欲しい」

そんな話をして繋いだ手を軽く揺らしながら、懐かしいキャンパス内に足を踏み入れる。

正門から本校舎に続く道の両サイドに、ズラーっと桜が並んでる。

「何か、四年間見てたはずなのに...」
「見てたはずなのに？」
「こんな感じだったかなぁ...と思って」

その花達は、まるで初めて見たような気がしてしまう程に綺麗。

授業を終えて帰宅する学生達とすれ違う。
俯いてスマホを見ながら早足に桜の下を行ってしまう人も居れば、桜を見上げて微笑み歩く人も居る。

「Aは、下を向くんじゃないよ？」
「...え？」
「その時にしか見られない景色をわざわざ自ら見ない選択をするのは、愚かだと思わない？」
「...フフッ、はい」

改めて、桜を見上げる。

桜色に吸い込まれそうになる。

「やっぱり...ちょっとだけ怖いですね」
「桜？」
「うん」
「まぁ、屍体が埋まってるからね」

先生がちょっと笑いながら話す。

「あ、そう言えばさ」
「はい？」
「お前、オレの足元にも屍体が埋まってるのか？って訊いて来た事あったよな？」
「えっ！？」
「忘れた？」

忘れるワケ無い！
だけど、それを今言う！？
むしろ、そんなの先生の方が忘れてると思ってたんだけど...！

「あの時の答え、聞いてなかったなー...ねぇ？A」
「えぇっ！？いやっ...そんな事ありましたっけー...」
「お？とぼける気？良い度胸してんね？」

先生が繋いでる手をグゥゥって握って来る。

「いぃぃ痛いっ！」
「答えは？」
「わかりません！」
「そっかー、じゃあ0点だなぁ」

0点と言われると悔しい...

先生は可笑しそうにクフフと笑ってる。

「0点は嫌だから、...答えますけど...」
「うん？」
「本当に答えても良いんですか？」

笑ってた先生の口元が少しだけ尖った。

「先生、照れ屋さんでしょ？」
「...はっ？」
「怖い位に綺麗だから」

慌てたように彼は目を私から逸らす。

「先生が、綺麗だから」

真剣に言いたかったのに、私、笑っちゃって

先生も、そっぽ向いたまま笑った。