イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ3)

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203.目的地。ページ3

「こんな展開が待ってるなんて、あの日のオレには想像も出来なかったわ」

手の甲の上で融けた雪が、水になってスルリと流れる。

「...さてと。そろそろ出発しよっか」

先生の言葉達に胸がいっぱいになってた私の手を引いて、先生が立ち上がった。

「お昼ご飯を食べる店は、もうすぐですか？」

私も立ち上がりながら、訊いてみる。
本当はもっともっと先生の気持ちを聞いていたいって思ったけど、こんな一気に幸せな気分になるのは勿体無い気もした。

美味しい物を、ゆっくり味わいたいのと似てるのかもしれない。

「うん、あと30分位かな」
「どんな所だろ...」
「きっと、驚くよ」
「驚く？」

『好きだと思う』とか『気に入ると思う』じゃなくて、驚くの？

その意味が分からないまま、高速を降りて海岸沿いを走る。

私が「うみー」なんて小さな声で言ってると、先生は歴史のありそうな立派な建物の駐車場に車を入れた。

「到着」
「え？ここ？」
「うん」

どっしりとした日本家屋。
駐車場には、たくさんの松。

「旅館？」

車から降りて先生に問う。

「旅館では無いな。料亭」
「料亭！？」

そんな高級そうな響きのお店、親とだって来た事無いよ！
しかも、見るからに格式高そうな...

「大丈夫よ、昼は安いらしいし」
「いやでも...安いって言っても...」

私の知ってる『安い』では無い、絶対に。

「オレが出すから気にすんな」
「余計に気になります！」
「まぁ、超サービスさせる予定だし平気よ、平気。何だったらタダにして貰おうかと思ってんのに」
「え...？」

お店の玄関まで歩いて行くと、中から着物を着た女性が出て来て迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、ご予約のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

うっわ...完全予約制だ...
物凄い場違い感が...

「二宮です。あの、ご主人いらっしゃいます？」
「あ！二宮様ですね。伺っております、少々お待ちくださいませ」

ペコリと頭を下げた女性が、お店の奥へと消えた。
それこそ旅館のようなロビーに入って、先生の言う『ご主人』を待つ。

「ニノー、いらっしゃーい」

その声がした方に顔を向ければ

和服姿の、大野先生。

「...大野先生！？」
「お久し振り、結城さん」
「えっ！？何で！？」

本当に、『驚く』だった。
驚き過ぎて、先生達の顔を何度も見てしまう。

そんな私を見て、二宮先生は可笑しそうにクスクス笑ってて大野先生もニッコリ微笑んだ。