イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ20)

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220.どこに行く。←10.5 ページ20

先生に言われた通り、お花見を励みに頑張って働いた。

風邪で当日欠勤になったスタッフの代わりに残業もしたし、花粉症で鼻ズルズルしながらも店外掃除も頑張った。

通勤で桜公園の前を通る時には、どれくらい花開いたかな？って桜を確認。
日に日にピンク色が増えて来た。

その様子を毎晩LINEで先生に写真を送る。

そしたら『オレも毎日見てるんだけど(笑)』って、高校にある桜の樹の写真が送られてくる。

何度も見てた正門の横にある桜。
それを先生が見上げてスマホを向けてる姿を想像すると、それだけで胸が縮んで苦しい。

『どこでお花見しますか？』

そう訊けば

『まぁ任せなさい』

と、返ってきて。

私はそれだけで、また頑張って働ける。

桜が八分咲きになる頃。
早上がりの土曜日に先生が迎えに来てくれた。

いつもの通り、先生はクルマに寄り掛かりながら桜公園の前で待っていて

「ここでもお花見できそうですね」
「でもここの桜は毎日見てんでしょ？」

少女漫画のように背景に桜を背負った彼が、助手席のドアを開けてくれた。

「どこに行くんですか？」

夕方、少しずつ陽が落ちる時間。

「ま、すぐに分かるよ」

軽く背中を押されて、助手席に乗り込んだ。

どこ行くんだろう...と思いつつ窓の外を眺める。
街の色んな所に、桜色が見える。

運転してる先生は、カーステから小さく流れる音楽に合わせて鼻唄。
トントンと指先がハンドルを軽く叩く。

この姿、何度見ても飽きないし

むしろ、何時間だって見てられる。

暫く走ると、窓の外に知ってる景色が流れ始めた。

私が数年前に、よく見ていた景色。

そして、先生もその何年か前に。

「...ねぇ、先生。もしかして...」
「あ、分かった？」

窓を開けると、ふわりと風に乗って桜の花弁が車の中に一枚舞い込む。

外壁が煉瓦の、大きな建物が見えて来た。

「そこに車停めよっか」

コインパーキングに車を停めた先生は「懐かしいわー」って目を細めて、私と手を繋いだ。

「Aも懐かしいって思う？」
「...うん、思う」
「ンフフ、まだ卒業してちょっとしか経ってないのに？」
「だって、卒業してから一度も来てなかったから...」

少し歩いて辿り着いたのは、私と先生が通ってた大学のキャンパス。

数年の差はあっても、高校以外で二人が見てた同じ景色。

そう言えば、大学生の頃はこの学校に来たのは失敗だったかもしれないと思ったりもしたな...と思い出して、少し笑う。