イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ19)

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219.仕事。ページ19

先生の、いつも私より少し冷たい唇は

やっぱりそのまま、静かに離れる。

掴まれてた手首も、離される。

「...さすがにマズイな」

先生がフッ、と笑った。

「ここは御近所の目があるの忘れてたわ」

ちょっとバツ悪そうに、私に寄せてた身体を運転席に戻そうとした先生の腕をギュッと掴む。

「ん？」
「.....」
「どした？」

掴んだその腕を引っ張ると、彼は「おっ」って私の身体に覆い被さるようにバランスを崩した。

「あっぶねー...何、どしたのよ」

私と先生の顔の距離は、さっきと同じくらいに近付いてて

「A？」
「...先生のバカ...」
「え？」

私は、自分から初めてキスをした。

唇が触れた瞬間、恥ずかしくて目をギュッと閉じる。

だけど、どうしたら良いのか分からなくて...
先生を挑発したいって思っても、どうすれば良いのか分からなくて...

結局、自分からこんな事をしてしまったってコトにドキドキし過ぎて

先生の胸を押して、離れた。

「.....」
「オレ、今日来た甲斐あったわ」
「.....」
「なぁ、あんまり触んないで」

ソコ、って私の手が触れてる胸を指さすと

「心臓、ヤッベェのよ」

そう言うと、困ったように彼は笑った。

手には、先生の心臓がドクドクと脈打つのが伝わって来る。

「ドキドキしてる...」
「だから、触んなって！はずいから！」
「先生、私でドキドキするの？」
「するから付き合ってんでしょ」

ギュウウウ...って抱き締められて

うぅぅ...って苦しくて。

「あ、時間だわ」
「えっ...もう？」

車の時計を見ると、本当に24時を過ぎてる。
そう言えば、私コンビニに行くって出て来たんだった...。
そろそろ帰らなきゃ...。

「A？」
「はい」
「次に会う時は、桜見に行こっか」
「...うん！」

私の身体に巻きついてた先生の腕がスルリと解ける。

「花見が待ってるから、それまで頑張って働けよ？」
「はい」
「オレも頑張ります」
「フフッ、頑張ってね！」

オデコにチュッと触れた唇が、嬉しい。

車を降りる前に、振り返り先生を見る。

「ねぇ、先生」
「ん？」
「今日は私のワガママ聞いてくれて、ありがとう」

そう言うと、先生は口角を上げた。

「女の子はオトコに我が儘言うのが仕事でしょ？」

まるで、当然の事だよとでも言うような口振り。
胸がいっぱいになる。

「...じゃあ、たくさん仕事します」

私の照れ隠しの言葉に先生は

「フハッ！肝に銘じておきます」

笑って、頭を撫でてくれた。