イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ18)

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218.時間の使い方。ページ18

驚いて弾けるように立ち上がると、その車は来客用の駐車スペースに停まった。

駆け寄ると、運転席で先生が肘の裏で口元を隠して笑ってて

迷惑かな...って思ってたから、その笑ってる姿に安心して私も笑ってしまった。

先生が「乗って」って手招きしながら口パクしたから、助手席に乗り込む。

「こんばんは」
「あ...こんばんは...」

私がペコリと頭を下げると先生は窓を開けて、煙草を口に咥え火をつけた。

スゥと吸った煙を、私とは逆の方に顔を向けてフゥと吐き出す。

「お前、明日仕事なんだよな？」

それと同時に、先生が話し始めた。

「...はい」
「じゃあ、帰る時間決めとこう。日付が変わるまでな？」
「え！？あと30分しか無い！」
「はい、スタート」

意地悪な顔にムッとして、その腕をパチンと叩くと彼はアハッて笑う。
ムッとしたはずの気持ちが一瞬でキュンに変わって、ホント私は簡単で単純だ。

「で？何かあった？」
「えっ...？」
「何か話したい事があるから会いたかったのかと思って」

話したいコトってゆーか...

さすがに、いつ先生とそーゆー関係になれるんだろうと考えてたら不安で憂鬱になって来て...なんて言えない。
それに、そんなコトを考えてるなんて知られたくない！
いやらしい子だなんて思われたくない！

フルフルと首を振る。

「ううん！何も無いです」
「そう？ま、良いんだけど。オレもホントは電話しよっかなー？って思ってたし」
「え？電話？」
「うん。Aの声聴きたかったから」

嘘だ、これ絶対に嘘だ！
だって先生ニヤニヤしてるもん！

なのに、何かもう真顔でいる事すら出来ない！

「嬉しそー」
「別に！」
「お、エリカ様」

茶化されて、また先生の腕を叩いて

「いってー」って笑う先生を、ポコポコ叩いたら

「あーもー、やめろって」って、両手首を掴まれた。

「30分しか無いのよ？」
「.....」
「Aは、こんな時間の使い方で良い？」
「.....やだ...」
「じゃあ少しだけ、黙ってみよっか」

先生の目尻が、ゆるーく下がる。

鳶色の目に、私が映る。

黙れ、なんて言われなくても何も言えない。

先生の顔が近付いて来て

手首を掴まれたまま、キスをする。

触れるだけの、キスをする。

触れるだけの、それ以上は？なんて...さっきまで思ってたくせに、嘘みたいに私の心臓の音は大きく鳴って

狭い車の中、先生にまでこの音が聴こえてしまってるんじゃないかな...って本気で思ったんだ。