イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ12)

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212.ホントのコト。ページ12

あの時

先生に『好きなものは？』って質問された、あの時。

「私、...『先生』って答えしか思い浮かばなかった」
「.....へっ！？」
「えっ？」
「あ、いや...」

てっきり「ばーか」とか「何言ってんの」とか言われると思ってたのに

「先生？」
「ほら、夕陽沈んじゃうよ！」
「先生？」
「もう良いから！」

掌で口元を押さえて、プイっとそっぽを向いてしまった。

「ねぇ先生、私まだ話終わってないよ？」
「あー、...うん、そうね。続けて」

そっぽ向いたまんま。

背中に話すのは何か嫌だなと思って、先生が顔を向けてる方に回り込むと

口を隠してる先生の目が、くるんって大きくなった。

何それ。可愛くてビックリ。
10歳も歳上なのに、すっごい可愛くてキュンとする。

「フフッ」
「...なに」
「先生、可愛いなーと思って」
「...お前、あんま調子乗んなよ？」

丸くなってた目がスッと細くなって、口を隠してた手でポコンと頭を叩かれた。

さっきまで隠れてた口元は、片方の口角がキュッて上がって意地悪な顔。

「それで？続きは？」
「あ...えっと...あ、そう、答えが『先生』しか思い浮かばなくて」
「うん」
「じゃあ、『国語』って言おうかと思ったけど露骨な気がしたし...」

面白そうに、先生が頷く。

「どうしたら先生の印象に残るかな...って思ったら、『日本語』って答えになってたんです」

少しでも、少しでも良いから先生にアピールしたかった。
気になる生徒になりたかった。

「じゃあ、お前の作戦は成功だな」
「え？」
「印象には残ったよ、あの答え」
「...ホント？」
「初めてだもん、日本語って答えた子。だから、今でも覚えてんじゃん」

クシャ、っと今度は頭を撫でられる。

「でもね、先生。私、その答えを嘘にしたくなかったの」
「うん」
「だから、いっぱい本を読むようになったんです」
「読書、楽しいだろ？」
「はい、すごく！...先生のお陰」

先生のお陰で、私の世界は広がった。
知らない事を、たくさん知った。
先生が、教えてくれた。

空は、もう真っ暗になっていてチラチラと小さな星が見える。

「そろそろ帰るか」
「.....」

何も言わないでいたら

先生が息を吐くように笑いながら、私の身体を抱きしめた。

「...外ではダメなんでしょ...？」
「暗いからセーフ」
「何かズルい...」

呟くと、「うっせ」って頬を抓られて

「痛い」って顔を上げると、先生は優しく微笑んで

キスをした。