イロコイ・ライン 6th【ars K.N】 (ページ2)

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202.秋は月。ページ2

高速の途中で、SAに寄った。

土曜のSAは家族連れで賑わってる。

先生がウーンと伸びをしながら歩く後ろを、ついて行く。

「アイスでも食う？」
「食べたい！」

『北海道ソフト』と『プレミアムソフト』があって、二人で暫く考える。

「絶対に北海道の方が美味しいですよ」
「いや、プレミアムだろ」

お互い自分の推しアイスを買って「ほら、こっちが美味しい！」なんて言いながら、途中で交換してみた。

「...何が違う...？」
「濃さ...？」

あんまり違いが分からなくて、二人して笑った。

ベンチに座って、残りのアイスを食べながら空を見上げる。

本当に良い天気。

...と思ってたら、晴れた空からチラチラと雪が落ちて来た。

「ゆーきー！」と、子供がはしゃいでる。

「風花」
「え？」
「風花だな」

冬の晴れた日に雪がちらつく現象を、風花と言う。
冬の季語にもなっていて、私はその日本らしい美しい言葉が好きだった。

「全部、見れたな。季語」
「......」
「季語の話したの、忘れた？」
「...忘れるワケ無いじゃないですか...」

一緒に花火を見たあの日、ビルの上でした季語の話。

「春は桜、夏は花火、そして冬は風花だって私は答えました」
「うん」
「でも、『秋は月』は...一緒に見てません」

私が言うと、先生も空を見上げた。

「後夜祭の日さ」
「はい...」
「すっげぇでかい月が出てたの、知ってる？」

もしかしたら行くはずだった後夜祭に行けなかった夜、私は一人であのビルへ昇った。
その時に見たのは

悲しくなる位に、大きな大きな月だった。

「知ってる...」
「知ってるって事は、見てた？」

うん、と頷く。

「ほら、全部一緒に見れた」

先生の口角が上がった。

「先生は...後夜祭であの歌を歌ったんですか？」
「...歌ったよ」

『あの歌』だけで伝わる事に、胸がキュウ...っとなる。

「でっかい月を見上げながら、アイツもどっかで見てるかなぁ...って思いながらね」
「......」
「同じ月、見てるかなぁ...って」

私が、泣くもんか！って泣きながらあの月を見上げてた時

先生は、同じ月に向かって歌ってた。

「その時にね、決めたんだよ」
「......」
「もう、こうやってアイツを想いながら歌うのは辞めにしよう...って」
「...先生...」
「オレは、想いを捨てようとしてた。全部、諦めようって」

彼の手が、私の手に重なる。

「こんなオレを想い続けててくれて、ありがとう」

重なった手の上で、雪がジワっと融けた。