イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ9)

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169.その理由。ページ9

まだまだ一緒に居たい私の気持ちとは裏腹に、車は私のマンションに着いた。

「送ってくれて、ありがとうございます」
「いえいえ」
「えっと...じゃあ、帰ります...」

シートベルトを外して、ドアに手を掛ける。

「明日も」

そのドアを開けようとした時、先生の声。

「一緒に帰ろ」

驚いて振り返ると、先生は微笑んでた。

「.....え？」
「だって、明日オレ花嵐堂に行くでしょ？」
「...はい...」
「お前も居るんでしょ？」
「...うん」
「だったら、お前の上がりに合わせて一緒に帰ったら良いでしょ」

首を傾げ、私を見る。

「それとも、仕事の後に何か予定あった？」
「無いっ！無いですっ！」
「じゃ、明日は一緒に帰りましょう。では、気を付けて帰りなさい」
「フフッ、もう家はすぐそこですよ？」
「エレベーターの中で襲われたとかニュース、聞いたこと無い？」
「.....ある」

だろ？って先生が、私にデコピン。

「いてっ...。フフッ、気を付けて帰ります」
「ん、よろしい」
「さよなら」
「また明日」
「...また、明日！」

『また明日』って言葉がこんなに嬉しいなんて。
その事に驚いた。

「お前さぁ」

先生がクハッて笑う。
何で笑われたのか分からない。

分からないから、不安になって先生の顔をじっと見る。
見てたら運転席から先生がニュッと身体を乗り出して来て

そっと頭を抱き寄せられた。

「えっ...あの...」
「お前さ、全部顔に出し過ぎ」
「顔に...？」
「『また明日』って言うだけで、どんだけ嬉しそうな顔してんのよ」

そんな顔してた！？
全然自覚が無い！

先生がクスクス笑ってるのが、身体を通して伝わって来る。

「何か...これまでは普通に言ってたし普通に使ってた言葉なのに。勿論今までだって先生に『また明日』って言われるのは嬉しかったけど...今は全然違う言葉みたいに聴こえて...」

先生に抱きしめられてると、何だか安心して。
ドキドキするのに落ち着いて来るなんて不思議で、素直に思った事を言ってみた。

「それはお前がオレに恋してくれてるからだろうね、ありがと」

ポンポンと後頭部を撫でられる。泣きそう。

「ちなみにオレも『また明日』って言えることが嬉しいよ？」
「先生...」
「オレもお前に恋してるからだろうね、オッサンが年甲斐も無く」

先生はオッサンなんかじゃないよ！って、言いたいのに、上手く喋れなくて

どうしたら良いのか分からなかった腕を、先生の身体に回してその背中をギュッと抱き締めた。