イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ8)

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168.ショコラ。ページ8

小さなチョコの粒を掌に出す。

煙草を吸い終えた先生に「食べますか？」って訊いてみる。

「ちょーだい」
「え？」
「え？って何だよ、自分が食うか訊いたくせに」
「一応訊いたけど、甘いモンはいらないって言われるかと思いました」

先生がハンドルに両手を掛けたままこっちを向いて

「あーん」

口を半開きにした。

「...えっ！？」
「早く」

半開きの口のまま、喋る先生。

「は...い...」

掌に乗った小さなチョコを一粒、先生の口に持って行く。
こーゆー時ってどこを見たら良いの！？
目？口？どこ！！

「ンフフ」
「なっ...何で笑うんですか！」
「お前、手が震えてるから狙いが定まんねぇって」

笑った先生が、私の手首をギュっと掴んで

そのまま、パクっと私の指先にあったチョコを食べた。

「小さいくせに甘いのな」
「...当然ですよ！チョコだもん...」

ヤバイ、先生の唇が指に当たったんだけど...！
ってゆーか、『当たった』どころの話じゃないと思うんだけど...！

「さーて、行きますか」
「......はい」

自分の指先が、さっきまでとは違うように見える。

思わず、自分の手を自分でギュウ...っと包み込んでしまう。

「そろそろお前んち向かうわ」
「もう...ですか？」
「もう、ってもう11時近いからな？明日も朝早いんでしょ？」
「そうですけど...」

また今度はいつ会えるか分からないのに。
たった二時間弱しか一緒に居れないなんて。

「先生は明日、何してるんですか？」
「オレ？オレはー...まぁ、喫茶店行って本読む位じゃないかな」
「...あ！先生！」
「何！ビックリすんじゃん」

私の突然の大声に、いつもはあんまり驚かない先生も本当にビックリしたみたい。

「花嵐堂に、また来てください」
「え...いや、でも...」
「加藤さんからのお願いなんです」
「加藤くんから...」
「自分に気を使われるのは申し訳ないって」
「......」
「大切なお客様だから、って言ってました」

ちょっとの間、先生は何かを考えるように黙って

私はその横顔を、ただ見詰めた。

「そうだな、じゃあまた行かせて貰おうかな」
「ホントですか！？」

やった！また先生に週に一回は会えるようになる！

「加藤くん、やっぱり油断なんねぇな。強敵だわ...」
「え？」
「だから見張りに行く」
「見張り...？」
「お前が加藤くんに浮つかないか、見張り」

チラリ、私を見て口角を緩く上げて

「うっ...浮つきません！」
「そう？」

先生は意地悪に笑う。