イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ6)

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166.忘れる忘れない。ページ6

「まぁ、そんな遠くまではいけないからその辺走るだけだけど」

運転席に乗り込んだ先生はそう言うけど、私にとっては先生の隣に居るってだけで現実じゃないみたい。

夜の街を先生が運転する車で走る。
いつも見てる風景も違って見える...なんて、すっごくありがちなんだけど。
だけど、本当にそんな風になるんだって実感した。

「そう言えば、会えた？」
「え？」

先生の問い掛けの意味が分からなくて聞き返す。

「オレに夢に出て来てって言ったでしょ」
「...あっ...」

冷静になると、かなり痛々しい事を言ってしまったんじゃ！？って恥ずかしくなって

「何か...あの...！忘れて下さい！！ちょっと、寝ぼけてたってゆーか...！！」

必死で取り消そうとしてみる。

「眠かったの？」
「...そうじゃないですけど...」
「忘れて欲しい？」

赤信号で、車が停まる。

ハンドルに腕を乗せた先生が、チラっとこっちを見て

「可愛いコト言うんだなぁ...って思ったんだけどね」

口角をきゅっと上げた。

胸がキュン所の話じゃ無い。
痛い。
殴られたみたいな衝撃。

死んじゃいそう、殺されるよ、どうする？

「お望みなら、忘れる努力をします」

信号が変わり、クフ、っと笑って先生が車を発進させる。

「や...やっぱり...忘れなくって良いです！」
「ん？」
「あ......えっと...」

先生が可愛いって思ってくれたからって「忘れないで良い」なんて、これもまた恥ずかしい気がしてもうどうしたら良いのか分からない。

「ンフフ、じゃあ忘れない」
「......はい」
「で？ちゃんとオレの事は探し出してくれたの？」
「夢で、ですか？」
「そう」

車は静かに走り続ける。

「実は夢を見たかどうかも覚えてなくって...」
「あー、そうなの？残念だね」
「はい...え？」
「オレは会いに行ったのに」
「......」
「おい！引くなや！お前の話に乗ってんのに！」

ケラケラと先生が笑う。

違うんだよ、先生。
引いてるはず、無いじゃない。

「...本当に残念。会いたかった...」

夢でだって、会いたかった。
そう思ったら何か本気で悲しくなって来た。

「こら。そんな顔しないの」

その声に先生を見ると、優しい目がこっちを見てる。

「現実でちゃんと会えるし」

先生が左手を、私の右手の上にそっと重ね

「触れられるでしょ？」

彼は私から目を逸らす。

「それに、オレはお前の笑ってる顔が好きですよ？」

こっちを見ずに微笑み言った先生の声に、やっぱり死んじゃいそう。