イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ38)

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198.ピアス。ページ38

そのまま先生は何も言わなくて、私も何も言わずに先生に抱き着いていて。

背中にあった先生の掌が私の髪を撫でて、そして頬を撫でて

スルリと耳を撫でた。

「...あれ？」

私の耳朶を指で挟んだ先生が、少しだけ身体の間に隙間を作って

私の顔を覗き込む。

「お前、ピアスなんかしてたっけ？」
「あ...はい」

小さな穴の開いた耳朶は、先生の指に挟まれたまま。

少しでも大人に近付きたくて開けた、ピアスの穴。

だけど、やっぱりまだまだ子供だった私には全然似合わない気がしてた。
無理矢理、背伸びしてるような自分が恥ずかしくて。

「知らなかった」

耳を挟んでた指が、スルスルと動いた。

「仕事の時は着けないし...普段もあんまり似合わない気がして着けてないから」
「そ？似合わないって事は無いんじゃない？」
「んー...あ、でもいつか似合うようになった時の為に、穴が塞がらないように寝る時だけ着けたりはしてます！」

私の言葉に、先生は小さく笑う。

「穴が塞がるのは嫌なのね？」
「だって、すっごく痛かったから...」
「痛いんだ」
「痛いですよ！だって、穴を開けるんですよ！？健康な体に穴を開けるんですから、痛いです！」

大学一年の夏。
本当は周りの子達みたいに安全ピンで一気に！と思ってたけどやっぱり怖がりの私にそれはできなくて、いろはちゃんに付き添って貰って病院で開けたピアスホール。

開けたその日は、一日中耳がジンジンしてご飯も食べられなかったっけ。

「あんな痛い思いして開けたから塞がっちゃうの、もったいない...」
「フハッ！なるほどね」

可笑しそうに笑う先生の指は、さっきからずーっと私の耳朶を挟んで撫でてる。

「......」
「ん？」
「...ううん、何でも無いです...」

耳朶の上を先生の指が滑る度に、背中がゾクっとして震えそうになる。

何これ...何か...

「や...先生...」
「え？」
「何か...やだ」

自分の身体から力が抜けて行く感覚が、怖くて

先生の胸を、ちょっと押す。

「あ、ごめん」

耳に触れてた指が離れて「ごめんな？」って、その指は頬に触れた。

「怖がらせちゃった？」

ううん、って首を振るけど

きっと先生は私が怖がってしまったの、気付いてる。

先生が私の身体を抱き上げるようにして、一緒に立ち上がった。

「そろそろ帰さなきゃな」
「...ねぇ、先生」
「ん？」
「...私、先生が怖い訳じゃないよ...？」

そう言うと、先生は眉毛を下げた優しい笑顔を見せた。