イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ27)

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187.背徳感と罪悪感。ページ27

隣に座る先生がサンドイッチを食べてる横顔を見ながら、私も卵サンドを食べる。

「あ、美味しい」
「そりゃ良かった」

フフ、って笑う先生のほっぺたが膨らんでる。

この卵サンド、先生も好きそうな気がする。
意外と先生って子供っぽい食べ物が好きなのかも...って気がしてる。

「ねぇ、先生もこれ食べま...」
「なぁ結城」
「...はい？」

先生がコーヒーを飲んでから、私に向き直した。

「お前がまだ生徒だった頃に、オレが言った事って覚えてる？」
「え...多分、8割位は覚えてると思います」
「フハッ！8割！すげぇな」

だって、私にとって先生の言葉は、ひとつひとつが宝物だったから。
それが私だけに向けられた言葉じゃなくても、授業中のちょっとした雑談だって忘れたくない言葉達だったんだから。

笑ってた先生の目が、スゥっと静かに私を見た。

「オレは、オレを『先生』と呼ぶ奴と、恋愛する気は無い」

一瞬で、周りの景色が国語科準備室になったかのような錯覚。

痛くて、痛くて、痛くて立てなくなる程に痛かったあの言葉。
宝物になんか出来なかった、あの言葉。

「...ってオレが言ったのも、覚えてる？」
「.....」
「さすがに忘れてた？」
「...忘れたいと思い過ぎて、逆に忘れられなかった言葉です...」

忘れたい、忘れよう、そう思ってる内は絶対に忘れられない物なんだなという事を知ったのはコレがキッカケだった。
だけど、意識をしなくなった時点でそれはスルリと記憶から落ちてくれたりする物で。

「でも...最近は忘れてたかもしれません」

先生が私の気持ちに応えてくれた事で、もう『忘れたい』なんて思わずに済んでたから。

「そう」
「はい...」

彼が何を言いたいのか分からなくって、きっと私の顔は不安を隠しきれなくなってるはずだ。
そんな私に、先生はやっぱりゆるっと笑いかけた。

「お前はいつまで、オレを『先生』って呼ぶの？」
「...え...っと...」
「そう呼ばれると何て言うか...背徳感ハンパ無いし、どっか罪悪感も持っちゃうのよ」
「罪悪感、ですか？」
「多分、学校の生徒達になのかな。あー、アイツらとそんなに歳が変わんない女の子をそーゆー目で見ちゃってんだなーオレ、ってさ」

クククって笑って、コーヒーを飲んでる。

「...『先生』って呼ぶ私とは、恋愛したくないって事ですか？」
「こら。誰がそんなコト言った？」
「だって...」
「また『だって』って言う」

先生のビー玉みたいな目が、私を優しく睨んだ。