イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ23)

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183.回りくどい。ページ23

「...もしもし」

ドキドキし過ぎて、たったこれだけの言葉で自分の声が震えてるのが分かった。

「もしもし、どうした？」

電話を通した先生の声は初めてで、まるで耳元で囁かれてるような音量に脚まで震えてる気がする。

いろはちゃんを見ると、彼女まで緊張してるような顔になってる。

「あのっ...あの、今私友達と居て...」
「うん」
「えっと...先生の話してて...」
「ンフフ、オレの？」
「それで...先生、時間あったら...あっ！無かったら良いんですけど！あの...ね」

ンンッ、って先生の咳払い。

次の言葉が出て来ない。
何て言おう...。

「お前、回りくどい。どこに居る？」
「えっ？」
「そこに行けば良いんだろ？どこ？今、駅だからどこでも行けるよ」
「...先生」
「何？あれ、違った？」
「違わない！来て欲しい！」

嬉しくって、胸がキューってなって、思わず大きな声を出してしまって。

電話の向こうでは先生が「声でけぇ」って大笑いしてて

一瞬キョトンとしたいろはちゃんにも、ケラケラ笑われた。

先生に駅名とお店を伝えて電話を切る。
何か手汗凄い。

「...来るって」
「うん、聞いてた」
「うん...フフッ」
「とうとう先生とご対面だー、楽しみ！私の想像通りかなー？」
「えー？どんな人を想像してるの？」

学校の駅からここまでだと何分位かかるかな。
時計を見て、先生がここに向かって来てるんだって思うと勝手に頬が緩む。

「あ、そうだ。Aちゃん」
「ん？」
「先生来る前に訊いとこっかな」
「何を？」
「もう、チューくらいした？」

いろはちゃんが唇を噛んでニィっと笑う。

「...ううん」
「そっかー。まだなのかー」
「うん。...あ、でも...」
「うん？」
「された、ここに...」

ここ、って私が自分のコメカミを指差すと

「何それ！格好良すぎない！？」

いろはちゃんは、テーブルにグデェっと倒れ込んだ。

「Aちゃん、先生の色に染められちゃいそうだね」

上半身を倒れさせたまま、私を上目遣いで見上げる。

「うーん...他の人を知らないから、染められるも何も...」
「それがもう既に染められてるんだって！」
「そうなの？」
「これは先生にちゃんとお願いしとかないとダメだなぁ」
「お願い？何を？」

んふふ、って笑ってる。

いろはちゃんは、何を先生にお願いするつもりなのか教えてくれなくて

30分位経った頃、先生がお店のドアを開けたのが見えた。