イロコイ・ライン 5th【ars K.N】 (ページ13)

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173.問1、問2。ページ13

「もう一回、言って下さいよ」

運転する先生に言っても「何を？」ってはぐらかされる。

「似合ってるよーって」
「もう言わないって言ったでしょ？」
「...意地悪」
「オレが言ってない事を勝手に深読みして勝手に不安になるような子には、言いません」

先生が、先生っぽい口調で言う。

「だって...」
「だって？」
「...何でも無い」

赤信号。
車がゆっくりと止まる。

先生の運転は柔らかいな、とこないだお父さんの運転する車に乗った時に思った。
お父さんなんて結構ギリギリでブレーキかけるから、お母さんがしょっちゅう怒ってる。

「『だって』は接続詞でしょ。その続きがさっきから『何でも無い』しか出て来ないんだけど？」

先生を見ると、「『だって、何でも無い』って変な文章じゃ無い？」って笑う。

「うん...。気持ち悪い文になってます」
「じゃあ問1。彼女は何故公園の前で走り出したのか。『だって』を用いて答えよ」
「え？」

車が滑るように走り出す。

「...それは...」
「うん」
「......だって、ちょっとでも早く...」

そこまで言って、ドキドキして来た。

だけど車の中で先生の隣、二人っきりの今なら言えそうな気がして小さく息を吐き出す。

「...先生の近くに行きたかったから...」

一気に言って、窓の外を眺める。
何か、先生の事は見れない。

「ンフフ、じゃあ問2。彼女は何故、彼の言葉を深読みしてしまうのか。『だって』を用いて、答えよ」
「だって......だって、先生とお付き合いしてるって事もまだ...何だか信じられないから...」

窓の外を眺めたまま、ポツリポツリと話す。

「ちょっとの事も気になるし、不安になるし...本当は意識しちゃうし...」

...ちょっと待って、これは『面倒な女』ってやつなんじゃないの！？
そう思われたくなくて泣くのも必死で我慢したのに！！

「あ...ってゆーのは、えっと、嘘って言うか...嘘でも無いんだけど...あの...」

しどろもどろ。

「お前はね、オレの言う事を信じたら良いんだよ」
「...え...？」
「オレの言う事『だけ』、って言っちゃうと何か色々と危ないから言わないけど」
「......」
「あぁ、言い方を変えよっか」

先生の声が、柔らかくなった。

「オレの事を信じてたら良いよ」

心臓が、うるさい位。

「だから何も気にしなくて良いし、不安にもならなくて良い。意識はちょっとして欲しいけど」
「......」
「走り出した理由も、非常に可愛い」

満点の理由だな、と先生は笑う。