イロコイ・ライン 4th【ars K.N】 (ページ9)

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129.新手のナンパ。ページ9

「お姉さん、知ってる？」

一つのイヤホンを半分こしてるせいで肩が引っ付く程近くに居る相葉くんが、チラっと私を見た。

「すだちの歌って、ニノちゃんが作ってるんだって」
「...うん、知ってる」
「あ、知ってるのか！」
「新曲...作ってた」
「えー！！新曲！？今年歌ったのかなー...聴きたかったなぁ...」
「......私も聴きたかった...」

ポツリ、と零れてしまった私の言葉に相葉くんの動きがピタっと止まる。

「お姉さんって、もしかして...」
「...え？」
「あ、ううん。お仕事中だったのに引き止めてごめんね！」

ちょうど画面の中では歌い終えた先生がペコっとお辞儀をした。

それが合図だったように、私も彼もイヤホンを外す。

「ううん、ありがと。動画、見せてくれて」

うん、って頷いた相葉くんが腰を伸ばした私をジィっと見上げてる。

「お姉さん、この動画...いる？」
「えっ！？」
「もし良かったらメールで送るよ？」
「......」
「あっ！メアド聞き出す為の新手のナンパとかじゃないから！」

ブンブン首を振って、「俺、彼女大好き！浮気しない、ゼッタイ！」って何だか標語みたいに言ったから可笑しくて吹き出してしまう。

「この動画送ったらお姉さんのメアドはすぐ消すし。その辺の心配しないで良いからさ」
「...でも...どうして...？」
「まだ何曲か入ってるの。全部、お姉さんに見て欲しいから」

相葉くんがニッコリ笑った。

「Aちゃん！オーダーお願い！」
「あ！はい、戻ります！」

カフェカウンターが混んで来てスタッフに呼ばれたから「ごめんね」って相葉くんに一言謝ってから仕事に戻る。

仕事をしてても、さっきの動画の中の先生を思い出す。

甘い声を、思い出す。

そうしてる内に、相葉くんが席を立った。

......動画、欲しいだなんて今更言えないな...

何でさっきすぐ欲しいって言わなかったんだろう...なんて後悔してたら

「お姉さん！これ！」

カウンターにやって来た相葉くんに紙切れを渡された。
見ると、メアドだって事がすぐに分かる文字の羅列。

「え...これ」
「自分のメアドを男に教えるのは怖いかな？って思ったから。そこに空メでもしてくれたら動画送るよ！」
「...良いの？」
「うん、良いの」

じゃあね！って手をヒラヒラ振って彼は店を出て行った。

「何？今の、ナンパ？」

一部始終を見てたスタッフに言われたから

「ううん、彼は『浮気しない、ゼッタイ！』らしいから」

って笑って応えた。