イロコイ・ライン 4th【ars K.N】 (ページ5)

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125.その日。ページ5

諦めようと、思い始めていた。

あんなに強い気持ちで先生と勝負すると決めていたのに。

先生が加藤さんに言った『こんな子が自分の側に居たらオレも絶対に好きになっちゃうだろうね』って言葉、最初こそ「先生は私を...？」って思った。

だけど、あくまでもそれは加藤さんの小説の登場人物だ。

......私自身の事じゃ無い。

もう、諦めよう...と。

これ以上、先生に重く思われたくも無い。

罰金制度を出し最初に本当に1000円を徴収したお陰なのか、加藤さんはあれ以来先生の話はしなくなった。

私を好きだと言った、その態度すら出さないでいてくれてる。

私自身も、何も考えないようにしてた。
でも考えないように意識してる時点で、考えちゃってるんだって気付いた。

先生に出逢い直す為に就職した花嵐堂だったけど、本当に素敵な職場だしここで働くキッカケになってくれただけでも先生に感謝だ...なんて、ちょっと強がり。

・

「Aちゃん」
「はい？」

相変わらず先生の来ない日曜日の夕方。

カフェのテーブルを拭いてると小山さんに声を掛けられた。

「今日、早上がり希望だったよね？お疲れ様、上がって良いよ」
「え？」
「あれ？前に希望出してたから。何か予定があるんじゃなかった？」

暫く考えて、胸の痛みと同時に思い出す。

...今日、文化祭の後夜祭だ...

関係者にするのを考えといてやるって言ってた先生とは、もう会ってない。

「予定、無くなったんです。伝えるの忘れててごめんなさい、私まだ残れますよ！」

アハ、って乾いた笑いが出て慌てて咳払い。

「ううん、今日はもう上がってゆっくり休んだら良いよ」
「え...？」
「最近Aちゃん、しんどそうだなと思ってたし」
「......」
「何て言うのかな、空元気？無理して笑ってる感じして、ちょっと心配だったんだけど...大丈夫？」

小山さんがお兄ちゃんみたいな表情で首を傾げた。

「大丈夫ですよー！でも...せっかくだから上がらせて貰おうかな！ありがとうございます」
「うん、いっつも頑張ってくれてるから」
「頑張るだけが取り柄ですからー」

フフーンってポパイみたいに両腕でガッツポーズをして得意気に顎を上げると

「それだけが取り柄ってコトは無いけどね」

笑って、小山さんが言ってくれた。

店を出て夕方の空の下、一人歩く。

影が長く伸びる。

会いたい...。

先生、会いたいよ...。

言葉にすると崩れそうな気がして

心の中で、ソッと呟いた。