イロコイ・ライン 4th【ars K.N】 (ページ21)

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141.死ぬ気で。ページ21

暫く小山さんと話してた加藤さんが、私の隣に戻って来た。

「Aちゃん、来週の日曜日ね」
「うん？」
「仕事、休みだから」
「えっ？...出勤だけど...」
「今、休みになったから」

小山さんの方を見たら、「急用らしいね、シゲが代わってくれるみたいだから大丈夫！」って笑って

そのままデスクから立ち上がり、スタッフルームを出て行った。

パタン、と扉が閉まったと同時に思わず加藤さんに、詰め寄る。

「急用...って、何ですか！？」
「俺、日曜日休みになってたんだけど別に予定も無いしさ。気にしないでよ」
「答えになってません！」
「ひとつの後悔も残さないでよ」

迷いの無い目で、彼が私をジィっと見た。

「俺が何の為に身を引いたか分かってる？」

その目の奥に、少しの悲しさが見えて喉が詰まる。

「Aちゃんに自分の想いを貫いて欲しいからだよ？」
「...私の、想い...」
「まだハッキリした言葉で伝えて無い上に、向こうからもハッキリした言葉は無いなんて俺からしたらすっげぇ中途半端なワケ」
「......」
「そんなの全然終わってないし、想いを貫いてるとも思えない」

私が黙ると、加藤さんは「ごめん...」と呟いた。

「だけどさ...諦めるにしても、何も行動しなかったら後悔するだけだと思うけど」
「...後悔...しますよね...」
「うん。中途半端だからね」
「......」
「違う？」
「...違わない」

もう既に、こないだ自分の気持ちを伝えなかった事を悔やみ始めてるくらいなんだから。

このまま「諦めよう」って決心したつもりでいたって、きっと私はいつまでも先生の影を追う日々から逃げられない。

「来週の日曜、あの店に行っておいでよ」
「でも...私に会っちゃったから、先生もうあのお店行かないかも...」
「居ても居なくても、それが『縁』だと思うよ？」
「そっか...フフッ、そうですね」

『縁』があれば、三度目の出会い直しが出来るのかもしれない。
会えなかったら、それは私と先生の『縁』が無かったって事だ。
それが運命だ。

そう思うと、心が少し軽くなった。

「もしダメだったら、俺が慰めてあげるから」

加藤さんが、左手で頬杖をつく。

「慰めついでに、俺が彼氏になってあげるから」

答えに困ってると、彼は笑って

「嘘。慰めてなんかやらないから、死ぬ気で先生と勝負しておいで」

私に拳を付き出した。

私が先生を好きだって加藤さんにバレた時と同じように

その大きな拳に、自分の拳をコツンと合わせた。