イロコイ・ライン 4th【ars K.N】 (ページ14)

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134.何度でも。ページ14

「二人は高校で一回出会って、花嵐堂でまた出会い直したんでしょ？」

その問いに、コクン、と頷く。

先生と出会い直す為に、私は人生を賭けたんだから。
何よりも、先生と出会い直す事を第一に考えて全部を決めたんだから。

「だったら、何度でもまた出会い直したら良いじゃん」
「...何度でも...？」
「うん。何度も何度も『また会ったね』って、『これで何度目かな？』って出会ったら良いと思う」
「......」
「あ、これ良いね。今度の小説の題材にしても良い？」

ククっと笑った加藤さんが、残っていたコーヒーをクイっと飲み干す。

「意地だって、貫き通して良いって言ったでしょ？」

カップから口を離した彼が、中身の無くなったその中に目を落としながら呟いた。

「俺が手伝えるのは、ここまで」
「...え...？」
「ここからはAちゃんが意地、見せてよ」
「......」

また私を真っ直ぐ見た加藤さんがソファの背凭れに掛けてた上着を羽織り、静かに立ち上がる。

「え...加藤さん...！」
「ん？」
「帰る...んですか...？」

１人残されるなんて、心細くて

立ってる彼を見上げてそう訊くと、加藤さんは困ったように溜息を吐いた。

「そんな顔しないでよ」
「...え...？」
「このままもう俺が連れ去ってしまおう！って思っちゃうから」
「......」
「うそ」

嘘ばっかごめんね、って笑って

彼はテーブルに置いてある伝票を手にした。

「駄目です！自分で払いますから」
「ううん。これ、罰金って事にしといて」
「え？」
「先生の話、蒸し返したから」
「あ...」
「じゃあね」

伝票をヒラヒラと振って、加藤さんはレジの方に歩いて行って

そのまま、こちらを振り返る事は無く店を出て行った。

１人になると、心臓がさっきよりずっとドキドキと音を立て始める。

先生を見ていると、その指が捲るページの音まで聴こえて来そうな、そんな気持ちになる。

ずっと、また喋りたいと想ってた。

ずっと、また会いたいと想ってた。

ずっと、またその目に映りたいと想ってた。

訊きたい事はたくさんある。

言いたい事もたくさんある。

でも今は、何よりも...

「......先生」

私は零れ出しそうな想いを抱えて、先生と三度、出会い直す。

文庫本の文字を追ってたビー玉のような目が、目の前に立ってる私に静かに移動した。

「...何...してんの、お前...」

いつだって全然ビックリしてないような顔をする先生の見せたその表情に

何だか苦しくなった。