イロコイ・ライン 4th【ars K.N】 (ページ12)

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132.ANTIQUE。ページ12

彼が連れてきてくれたお店は、花嵐堂と同じ町にあるけど最寄駅から結構歩かなきゃいけない場所にあって

加藤さんもたまたま自転車でこの辺を散策してた時に見付けたらしい。

小さな平屋の壁に蔦が這っていて、門扉をくぐるとうっそうと木々の茂ったお庭が見えた。

開け放たれてるドアをくぐると、「いらっしゃいませ」と個性的な店員さんが静かに迎えてくれる。

「お好きな席へどうぞ」

促されるまま、店の中を覗くと色も形もバラバラなアンティークな椅子やソファ。

私達は、店の一番奥にある１人掛けソファが向かい合わせで置いてある席に腰を下ろしてコーヒーを頼んだ。

運ばれて来たカップも私のと加藤さんのでデザインが違う。
これ、毎回違ったら楽しみになるかもしれないなってワクワク。

壁際には天井まで届く大きな本棚。
その中にはパっと眺めただけでもハードカバーの物も、文庫本も漫画もあるし雑誌もある。
写真集や作品集も。

「すっごく気になる物がたくさんあります！楽しい！」

私がキョロキョロしてると、加藤さんが「でしょ？」って満足そうにカップに口を付けた。

それから暫く私達は雑談をして、コーヒーを飲んで。

一時間くらい経った時だった。

一点を見詰めた加藤さんの肩が、ピクっと上がった。

「どうしたんですか？」
「ん？あ、いや...」

彼の視線は、私の背後に向いてる。

その方向には、お店の入口。

何かあったのかな？と、私が振り返ろうとすると

「こっち見て」

加藤さんが、静かに、でもハッキリと言った。

「少しだけ。まだ...今だけ、俺を見てて」
「...え...？」
「今日『デートしよう』って俺が言った時、もしAちゃんが少しでも脈ありそうな雰囲気だったらここには連れて来ないつもりだった」
「...加藤さん...？」
「でも、やっぱ全然脈無しだなって思ったから。最後の賭けも、俺の負け」

フゥ、って小さく息を吐いた彼が「残念」って笑う。

「...あの、どうゆーコトですか...？」

加藤さんの視線が動く。

まるで、何かを追ってるように。

まるで、誰かを追ってるように。

その視線がピタリと止まった。

「罪滅ぼしになったら良いんだけど、ね」
「何...？」

加藤さんが見てる方に、ゆっくり視線を動かす。

「まだ、Aちゃん達の縁は消えてないよ。きっとね」

お店の端っこ、大きな本棚の横。

そこには、ソファに沈むように深く腰掛け

文庫本を片手にコーヒーを飲んでる

先生が居た。