双子になって百八日目。 ページ20
「...銀...時？」
「おう。久しぶりだな。怜羅」
記憶よりも随分低くなった声で俺の名前を呼ぶ。
「夢だ、嘘だ、なんで、生きて...」
今ここに銀時がいるはずがない。
だってあの夜俺のせいで銀時は夜の海に沈んだはずだ。
俺は銀時の体を緩やかに拒絶する。
「勝手に殺すんじゃねぇよ。...でもまぁ、そう思って当たり前か。」
銀時は俺のことをぎゅっと抱きしめ離れた。
甘い匂いが離れていくことに少し寂しさを感じる。
目の前に居る銀時は横目でコートを一瞥した。
「悪ぃ、もう試合始まっから」
俺もコートをちらりと見る
どうやら倫太郎達は空気を読んで俺たちを放っておいたままアップを始めてくれたらしく、もうそろそろそのアップも終わりそうだった。
銀時は俺に後で電話すると俺の連絡先を聞いてきた。
俺はそれを承諾した。
銀時がエナメルから手帳を取り出すとふわっと何か黒いものが飛び出た。
それは黒猫の刺繍が入った黒いハンカチだった。
それを見た途端俺の目から大粒の何かが滲み出る。
涙だ。
漸く俺は銀時会えたことが現実だと実感したのだ。
銀時はオロオロして不器用に俺の涙を手で拭う
それでも止まらない涙に銀時はその黒いハンカチを俺の目元に押し付けた。
懐かしい香りが鼻を通り抜けさらに泣く。
もう試合が始まってしまうからと銀時はメモ帳に自分の電話番号を書き俺にハンカチと共に握らせた。
「じゃあ、"また"な！」
銀時は俺に手を軽く振りコートの中に慌ただしく入っていった。
「怜羅！大丈夫？」
後ろからパタパタと徹が駆けてくる。
「っ！？それ...！」
俺が握っていたハンカチを見て徹が驚く。
俺はコートの中でタオルやスポドリを片す銀時を眺め続ける。
それに気づいたのか俺の目線を辿って徹も銀時を見つけたみたいだ。
全てを察したのかのように徹はふっと笑って空いている俺の手を取る。
「怜羅、生きてて良かったでしょ？」
俺は泣きながら大きく頷いた。
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作者名：しばいーぬ | 作成日時：2021年11月26日 19時
