▼続き ページ19
――耳をくすぐったのは、涼やかな銀鈴のように美しい調べだった。
慌てて駆け寄ってくる足音。狭まった視界に、美しい顔がめいいっぱい広がる。
Aは順平の顔を両手で挟み込み、今にも泣きそうな表情と声で、「大丈夫?」と何度も尋ねる。
「ごめん、雪音さん、待ち合わせに遅れちゃって…。もう帰っちゃったかと思ったよ…」
「帰るわけないでしょう、一緒に映画を見るって約束したのに」
「そっかぁ…」
会話を交わす2人に、呆気に取られていた男子生徒たちはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ始める。
「この女、さっきの待ち受けの…」
「――あなたたちがやったの?」
全く感情がこもっていない、驚くほど平坦な声が発せられる。
振り向いたAの顔を見て、彼らは「ヒッ」と喉を引き攣らせるような悲鳴をこぼす。
――ゾッとする程に冷たい光をたたえたその瞳に、普段の慈愛に満ちた面影はない。
「どうしてそんなひどいことを平気で行えるの?何故笑っていられるの?何が楽しいの?何が面白いの?――ねぇ、教えてくれない?」
地獄の底から響く怨嗟にも似たその響きに、男達は本格的にガタガタと震え始めた。
恐怖から来るものもあるが、それだけではない。実際にその場所だけ、明らかに周りと温度が違うのだ。
地面をうっすらと霜が覆い始める。Aから発せられる凄まじい冷気に、空気が白く凍える。
突然、男子生徒の腕に痛みが走り、切り傷が出来上がる。
原因が分からないその現象に彼らはギョッとするが、本当の恐怖はここから始まる。
「うっ、腕から、何か…こっ、氷!?」
先程できた切り傷からめきめきと何かが生え始める。…それは、宿儺戦の時に瑠璃が見せた氷の結晶花と同じもの。
サイズは瑠璃が作り上げたものの方がずっと大きい。しかし、Aの呪力で出来上がった結晶花は、肉を裂き、自らの存在を主張するかのように傷口を広げ始める。
「あああああああああああああああっっぐうう!!」
「ぎゃあああっっ…いでええよおお!!!!!」
その激痛に悶え苦しむ男子生徒たちと、呆気にとられる順平。
Aはというと。
「な、なんで…こんなこと、するつもりじゃなかったのに…っ、呪力が、止まらない…」
自分の抑えきれない膨大な力に焦るAの脳内に、瑠璃の声が響いた。
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ゆきのふ(プロフ) - めちゃくちゃ分かります、私もしれっと挟まりたいです… (2021年3月6日 14時) (レス) id: 02cc0a4dd4 (このIDを非表示/違反報告)
斎 - 棘先輩と全力抱きしめ(助走付き)羨ましい…!棘先輩も夢主も羨ましい…!!間に挟まれたい…← (2021年3月6日 13時) (レス) id: df01ca2639 (このIDを非表示/違反報告)
安仙任(プロフ) - ありがとうございます!応援しています! (2021年1月6日 12時) (レス) id: 80f06437e4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのふ(プロフ) - 安仙任さん» 少し先になってしまうかもしれませんが、やってみますね!! (2021年1月5日 22時) (レス) id: 2041975419 (このIDを非表示/違反報告)
安仙任(プロフ) - ストーリーでお願いします(。。) (2021年1月5日 22時) (レス) id: 80f06437e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆきのふ | 作成日時:2021年1月4日 13時