11話 ページ11
雨の音がする。冷たい、哀しみの音。
逃げたい。嫌だ、こんなところに居たくない。
そう思っても、願っても、瞼は徐々に開き、そして、
「嫌っ!」
目に映ったのは藍色。
あれ、確かあの夢の続きは――。
そう思ったところでずき、と頭に痛みが走った。
頭を押さえる。何も考えられない。考えたくない。
「あの、どうしたんですか……?」
肩に重みと暖かさを感じた。誰かが私の肩に手を置いているようだ。
ゆっくりと目を開けると、先程の藍色。それの正体は六道骸だった。
「……君か」
「はい。あの、魘されていましたが……」
「大丈夫、何でもない」
ぐらぐらと揺れる視界と気怠さに苛立ちを覚えながら、朦朧とする意識を何とか保つ。
またあの夢だ。あの日の、夢。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だと言ったでしょう。……そんな顔しないで」
私のことを心配しているのか、姿を映すその瞳は微かに揺れていて、口から零れる言葉は不安そうに震えていた。
心配性だな。たかが夢如きにそんな顔をするものじゃないだろうに。
彼の頭を軽く撫でてやると、安心したのか、顔を僅かに綻ばせた。
「良かったです。何度も声をかけたのに起きないので、このまま死んでしまうのではないかと……」
その言葉に、私がそう簡単に死ぬわけがないでしょうと返すと、そうですね。と言い微笑んだ。
彼は最近よく笑うようになってきた。良いこと、なのだろう。
「そういえば、今日こそ教えてください。あなたの名前」
「……適当に呼べばいいと言ったじゃない」
そういうわけにもいかないでしょうと少し呆れたような顔でそう言う。
あの翌日、彼は私の部屋に来て名前を教えてほしいと言ってきた。
そういえば言っていなかったな。と思うものの、あの人がつけた私の名前はもう忘れてしまったし、前世での名前は、この世界で生きていくには捨てたほうがいいと思った。
だから適当に呼んだらいいと言ったら、先程のような返事をするのだった。
でもまあ、名前はあったほうがいいかもしれないな。これから必要になってくるだろうし。
……ここから生きて出られたらの話だけれど。
名前、名前か。
何がいいだろう……。子供に名前を付けるときの親の気持ちってこんな感じなのだろうか。
まあいい。そう、だな……。
「しおん……紫苑だよ」
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杏 - いえいえー当然の事を言っただけですー喜んで貰えて光栄ですよー それと、音域を広げる練習、頑張ってくださいー諦めずに頑張れば報われるはずですからねー ふむ、来月ですかーコトハ@白亜さんの小説は奥が深いのでーワクワクしますねー楽しみにしてますー (2015年8月21日 12時) (レス) id: 7c8a29757a (このIDを非表示/違反報告)
コトハ@白亜(プロフ) - 杏さん» 返信ありがとうございます。そう言っていただけると作ってよかったと思えます…ありがとうございます。なるほど、その方法がありましたね…早速試してみようと思います。アドバイスありがとうございます。せめて再来月までに公開できるよう頑張ります…! (2015年8月20日 18時) (レス) id: 5c05607229 (このIDを非表示/違反報告)
杏 - 大丈夫ですー、ミーも返信遅くなってすみませんー 気に入った作品にコメントするなんて当たり前じゃあないですかー 音域が狭い、ですかーピアノで音を取ると結構出やすいですよーあとは、歌いたい曲を練習してー音域を広げるのもいいと思いますー 続編、待ってまーす (2015年8月20日 15時) (レス) id: 7c8a29757a (このIDを非表示/違反報告)
コトハ@白亜(プロフ) - 杏さん» 返信ありがとうございます、遅くなってすみません!わわ、続編までコメントいただけるんですか…ありがとうございます!嬉しいです!音痴というか出せる音域が狭いんですよね…なので歌が上手い人羨ましいのです… (2015年8月19日 0時) (レス) id: 5c05607229 (このIDを非表示/違反報告)
杏 - はいー、頑張って下さいー続編出来るまで此処を見に来たりしましょうかねー 一番に作品を見に行ってコメントしたいですー…音痴?そんなのカラオケが悪いんですー声の質は様々じゃないですかー (2015年8月17日 11時) (レス) id: 81089b7519 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:コトハ | 作者ホームページ:
作成日時:2014年6月13日 17時