嫉妬 ページ21
「いや、僕はAさんが心配なんだk…」
「まぁまぁ安室君。子どもたちに付き合ってやってくれんか」
「Aさんのことならご心配なく。私がついていますから」
「くっ…」
零君から悔しそうな声と表情が漏れている。なんとなく、本当になんとなくだけど赤井さんがドヤ顔しているように見えた。
哀ちゃんに小さなウインクを残されて赤井さんと2人になった。
赤井さんは首元をポチッと押す。
「悪いな、ボウヤとAに嘘をつかせた」
赤井さんの声だ。瞳も開いている。
「私はそんなことないですけど…。どうしたんですか」
さっそく2人になれて嬉しいのをこらえて、私はごまかすように髪を耳にかけた。
「いや、大した理由じゃないんだが…」
赤井さんはさりげなく私の手を取って力が入っているか入っていないかの強さで握った。
「これは?」
「…安室君の上書きだ」
「は?」
「さっき手をつないでいたんだろう。無性に悔しくなってな…」
赤井さんはレンズを光らせてメガネを押し上げ、顔をそらした。
「俺も男だ。嫉妬くらいはするさ。Aが若い男と一緒にいるだけで虫唾が走る。お前が安室君の車に乗っている間も気が気でなかったよ」
「それってつまり…」
嫉妬。赤井さんの口からそんな言葉が出るとは意外だ。
明らかに期待してもいい言葉だと思う。顔をこちらに向けない彼を見上げて手をきゅっと握り返した。
「Aが妹みたいに心配なんだ」
「妹…」
赤井さんにとって私は世良ちゃんと同じ目で見られているのか…。
「はぁ…それはどうも…」
いかにも社交辞令な言葉しか返せず、今度は私も顔をそらした。
勝手に好きになって勝手にフラれた。虚しい上に恥ずかしくなった。
「A?」
「私帰ります。本当に調子悪くなってきたみたいなので」
「大丈夫か? 私が送ろう」
「結構です。博士にお願いしますから」
これ以上は何も言われても反応を返す気になれない。私は赤井さんの手を振りほどいて人混みの中へ走って消えた。
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作者名:カサブランカ | 作成日時:2019年5月10日 14時