東都水族館 ページ19
「あ、零君! ペンギンだよ」
「お、おう…」
私に腕を絡まれた零君は苦笑い気味に、分厚いガラス越しにペンギンを見た。
零君を赤井さんに近づかせないための作戦…できるだけ彼に引っ付いて1人で行動させない。
自分でもバカげた作戦だと思う。それでも赤井さんを守るためなら…と、頬が引きつりそうなのをこらえた。
「A…。いつもはこんなことしないだろ? 急にどうしたんだ」
「別に…」
適当な理由が思いつかない。赤井さんを守るのに理由がないから?
「こういうの嫌だよね…」
「正直嫌ではないんだけど…。もしかして、3年前の事故のことを思い出したのか?」
3年前の爆破事件。事故後のことは膨大な資料が舞い込んできて、まとめるのに苦労したしキュラソーのことを思い出しては職場で涙ぐんだ。
トラウマになってるんじゃないだろうな、と零君にカウンセラーを紹介されたっけ。
「そういうことならそう言えばいいのに」
零君は私の腕をほどいて私の肩を抱いた。何か誤解している。だけど何も言えず、黙ってペンギンを再び見つめた。少し気恥ずかしい。お互いただの同級生として認識しているから、こんな恋人同士でしかしないようなことは初めてだった。
「…零君」
「…?」
急な沈黙に耐えきれず、言い訳のように口を開いた。零君は顔を私の方へ傾けて眉を上げた。
「炎上しそうだからこういうのやめよう」
「炎上…梓さんと同じことを言うんだな…」
零君は前髪をかきあげて目を閉じ、私から離れた。
「このご時世誰がどこで見ていて、写真やら動画やら取ってアップするか分からないですよね…って梓さんと話したよ…。私も零君とポアロに入った時、JKにガン見されたことがある」
「そうなのか…」
零君は頬を引きつらせた。モテる男は女性に睨まれることなんてないんだろう。
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作者名:カサブランカ | 作成日時:2019年5月10日 14時