三十七 : 月夜の願い ページ39
漆黒の空に浮かぶ満月。
皆が夢の中の一方、Aは寝付けなくて寝返りを打った。
寝返りを打った先には、今だ目覚めない傷だらけのハクの姿が。不規則な荒い呼吸を繰り返し、とても苦しそうで。
『…私には、こんなことしか出来ないけれど』
Aは、そっとハクの片方の手を自分の両手で包み込む。
―――また、元気な顔を見せて
それだけを願って、Aは手を握りしめた。
手から伝わってくるハクの暖かな体温を感じながら、Aはまた目を閉じた。
***
あれから、どれくらいたっただろうか。
浅い眠りを繰返していたAは、自分の名を呼ぶ声に引き寄せられるようにして、現実に意識が舞い戻る。
「A、ありがとな」
その一言を聞いた途端、開こうとしていた瞳を固く閉じた。普段からは考えられないような、ハクの優しげな声だったからだ。
「崖から身を投げ出されそうになった時、手を掴んでくれて助かった。結果的には、皆奈落に落ちちまったけど」
はっきりとした口調で話すハクは、寝言では無く、完全に意識が戻ったらしかった。
ふっ――かすかに笑い、優しい手がAの頭へと置かれた。その手は髪を撫でるようにして降りてきた。サラ___ハクの手から私の髪が零れ落ちる。
「あの夜…Aが瀕死の状態になった時、怖かった。アンタが2度と目を覚まさなくなるかと思ったんだ。……今回も無傷じゃないんだろ？」
悲しげな声と共に、ハクが近くに寄ってきたのを感じた。今、起きる訳にもいかずAは寝た振りを続ける。
「……Aの従者という立場や剣、宿命や運命、全てからAを奪ってやりたい」
何の前触れも無しに、Aの頬に口付けが落とされた。触れるだけの優しい口付け。
Aの心臓は一瞬にして、跳び跳ねた。
「全てからAを奪って、姫さんの従者でも、霊華姫でもないただのAにしてやりたいんだ」
遠ざかっていく気配。もぞもぞと、動く物音からハクは起き上がったらしい。
起き上がっていいの？ 体は大丈夫なの？
ハクの体を案じて、声をかけなければならないのに、口も体の指一本さえ動かすことは出来なかった。
大刀を探しに行くと外に出て行ったハク。間もなく、ヨナも跡を追うようにして外に飛び出していった。
『ハク…こんなこと言われたら寝れないじゃない』
甘いその感情は、しっかりとAの胸に焼き付いていた。けれど、取り零したAの"好き"という自覚だけは、呆気なく、消えていく
続く (更新停止中)
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深雪 - とても面白かったです！更新頑張ってください！ (2018年6月5日 18時) (
レス) id: 9b6ae3d64f (このIDを非表示/違反報告)
輝夜 - 面白かったです！私パンダアイラブプロデューサーという名前で占ツクに投稿してます。暁風の夢さんのこと応援してます。一緒に頑張りましょう!! (2017年4月29日 12時) (レス) id: 0642b6c808 (このIDを非表示/違反報告)
Pano - 面白かったです！！これから頑張ってください。応援してます！ (2016年9月4日 20時) (レス) id: 6790929056 (このIDを非表示/違反報告)
のあ(プロフ) - 良かったです！頑張って下さいね！応援しています(*'▽'*) (2016年6月7日 23時) (レス) id: 244a9211b5 (このIDを非表示/違反報告)
暁風の夢(プロフ) - のあさん» コメントありがとうございました！そう言っていただけると嬉しいです。 (2016年6月7日 23時) (レス) id: 4565eb4012 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小林春樹 | 作成日時：2016年2月27日 23時
